ハニの戸惑い 46
「気分が悪くなったら、我慢をしないでちゃんと言うんだぞ。お前は、オレの事を気遣って我慢する癖があるからな。」
「はいはい・・・・我慢はしません。もうスンジョ君の臭いにも気持ち悪くならないし、絶好調でぇ~す。」
後部座席に座るハニは、お気に入りのトゥンを顔の前に持って来て、それに話しかけた。
「おいおい、そんな物に話しかけないで、急ブレーキを掛けた時にもすぐお腹を庇えるようにクッションを抱いておけよ。」
役所に婚姻届を出して本当の夫婦になったのだと思うと、ハニは嬉しくて仕方がない。
「スンジョ君、何か食べる?」
「いらない。」
「疲労回復に、チョコレートがあるよ。」
「チョコレートは嫌いだ。」
「クラッカーは?塩味だから甘くないよ。」
「いらない。」
「ミカンもあるよ。」
「いらない!」
しつこく話しかけてくるハニに対して、イライラし始めたスンジョの様子に気が付かない。
「ココアを飲む?」
「飲まない!!」
「ガム、食べる?」
「食べない!!!」
「のど飴食べる?」
「食べない!!!!!!」
「何か食べる?あっそうそう、お昼にジュングが、パパが作ったお弁当を持って来た残りがあるの。荷物になるからって、ラップに包んであるんだけど・・・・・」
急ハンドルを切って、スンジョは路肩に車を停めた。
「危ないよ、急ハンドルを切ったらおなかの赤ちゃんに危険でしょ。」
大きなため息を吐いて、スンジョはシートベルトを外して後部座席の方に身体ごと向きを変えた。
「お前なぁ~遠足か?」
「みたいなものじゃない?だって、ママのお墓は遠いからいつもパパと行く時は、お菓子を食べたり何か飲んだりしていたもの。」
「で・・・・・・毎日それだけの食べ物を持って学校に行っていたのか?」
「うん。だって、妊婦だからお腹が空くんだもの。」
「妊婦だからって、そんなに食べていたら太るだろう。太って産道が狭くなったら産む時に大変だぞ。」
「は・・・・・・い・・・・・控えます。」
「それと、運転中に話しかけるな。事故を起こすだろう。」
ニッコリとハニは笑った。
全くその顔は反省などしていないようにも見える。
「大丈夫、スンジョ君は天才でなんでも完璧だから、事故なんて絶対に起こさないから。」
全く意味のないハニのスンジョに対する信頼は、怒るどころか呆れるしかなかった。
「ねぇ・・・・・・・これは飲んでくれる?」
ハニが出したのは、スンジョの好きな缶コーヒーだった。
「これね、婚姻届を出した時に役所の自販機で買ったの。大学の自販機は売り切れの時が多くて・・・・・・・・」
ひょいっとスンジョは缶コーヒーを取って、プルタブを開けて一口飲んだ。
「これからは沢山持つんじゃないぞ。重い物を持つと、身体によくないから。」
ひねくれスンジョは簡単には素直になれない。
少しずつ少しずつ、ハニの愛によって素直になってはいるが、いつになったら素直にハニが心配でたまらないと声に出して言えるのだろうか。
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