ハニの戸惑い 54
スンジョ君が『我慢して、お前は本当にバカだよ』と言ったっきり何も言わずに部屋を出て行ってしまった。
怒った風でもなく、ちょっと呆れた顔でそれでも優しい顔をしていた。
そうだよね、お腹にはスンジョ君の赤ちゃんがいるんだもの。
スンジョ君が子供を好きな事は私は知っている。
歳の離れた弟のウンジョ君をすごく可愛がっているし、何よりも私がこうなる前に公園で一緒に歩いていた時も、小さな子供を見るとあの綺麗な顔が見た事もない位に優しい顔になって笑顔を向けていた。
その時はちょっとショックだったけど、子供に負けた事で悔しかったわけじゃない。
「ハニちゃん・・・・・・・ハニちゃん・・・・・・」
「おばさん?」
「入っていいかしら?」
いつも元気な声を聞かせてくれるおばさんが、声を潜めて呼びかけてくれた。
「はい、どうぞ。」
横になっていては心配をかけてしまうと思って、私は急いでベッドから起き上がった。
「まぁまぁ・・・・そのままベッドに横になっていなさい。」
グミはハニの方に駆け寄って、ベッドに横になるように手を添えてくれた。
「まだみんな食事とかしているんですよね・・・・・すみません、途中で抜けて。」
「何を言っているの。みんなはまだ飲んでいる人もいるし、部屋に行って休んでいる人もいるわ。会社の施設だから古いけど部屋数だけはあるから、気兼ねはしなくてもいいわ。」
グミはハニの傍に椅子を持って来て、身につけているアクセサリー類を外していた。
「スンジョからウンジョに言ってくれなかったら、大変な事になっていたかもしれないわね。今ね、スンジョが近くの病院に電話して、往診に来てくれるように頼んだの。あの子ったら信じられないくらいに真っ青な顔をしていたわ。<流産の危険があるので大至急来てください>って。」
「スンジョ君が?」
知らなかった。
スンジョ君が、そんな風に連絡を入れに言ってくれていたなんて。
「ナイショよ。それにね、学校の勉強も大変なのに、産科の勉強もしていたみたいなの。昔からあの子は訳の分からない難しい本ばかり読んでいたから、何を読んでいるのか親として興味もなかったけど、自分の気持ちを人に見せないようにしているけれど親になるのが嬉しいみたい。」
きっとこの話も内緒にした方がいいんだろうな。
その時、スンジョと誰かが話しながら部屋に入って来た。
汗を掻いて白衣を着た医師が、ハニとグミに頭を下げた。
その医師の後頭部の僅かに残っている髪の毛が、クシャクシャになっているのが可笑しくて、ハニとグミは吹き出した。
「なにか・・・・・」
「いえ・・・・・クスクス・・・・・」
医師は、部屋に入って直ぐに手袋をして、準備を始めた。
「ここで診察?」
「ここしかないだろう、ほら下着を取れよ。」
「やだ・・・・・・恥かしい・・・・・・・」
そりゃあそうだよ。こんなに明るい部屋で、スンジョ君もおばさんもいるのに、この禿げた先生に恥ずかしい所を見られるのなんて・・・・
だって、妊婦健診の時はスンジョ君もいないしそれに・・・・・女医さんだったから、恥ずかしいけど我慢できたのに。
ハニは、小さな子供が注射を拒否するように布団をしっかりと握った。
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