ハニの戸惑い 61
「行って来ますね。」
「奥さん、お願いします。ハニ・・・・頑張れよ。後からみんなで行くから。」
いよいよ産まれそうだというのに、スンジョが帰って来るのは明日の午前中。
大丈夫だと言わないと、きっとスンジョは深夜に何とかしてでも帰ろうとする事は、判っていたから平気な振りをした。
「お母さん、寛いでいたのにすみません。」
「子供はいつ産まれるのかは分からないわ。潮の満ち引きで産まれる亡くなるが関係しているなんて、昔の人はよく言っていたけど、案外それは当たるのよ。スンジョに言ったらバカバカしいって言われちゃうけど、スンジョの時は早朝だったわ。」
初めてのお産で不安なハニの気を紛らわせるために、グミは出来るだけ明るく話をした。
病院に事前に電話をしていたお蔭で、時間外受付からそのまま産科病棟に移動し、病室に荷物を置いて、落ち付く間もなく病院着に着替えた。
「いたた・・・・・」
「大丈夫よ。スンジョとハニちゃんの子供なら、きっとすごく聞き分けのいい子供だと思うわ。」
「お母さん・・・・・・・男の子だったら・・・・・・ゴメンなさい。」
陣痛の痛みに耐えながらグミに謝るハニを見て、痛みに耐えている姿を見てズキンと胸が痛くなった。
「何を言っているのよ。あれは、冗談よ。元気な子供が産まれればそれでいいのよ。ハニちゃんは若いのだから、まだ何人も産む事が出来るから。」
と言ったものの、内心は『絶対女の子』と思っていた。
スンジョが家を出る時に、万が一の時は頼むと言われた。
その時に、絶対に『女の子』とハニに言うな!とすごい剣幕で念を押された。
陣痛室から分娩室に移っても、なかなか産まれそうもなかった。
「頭は見えているのに・・・・・・頑張るんですよ。」
産科のパク先生と助産婦と看護学生に見守られながら、この痛みが朝まで続きそうな事に不安が膨らんだ。
そんな時、看護学生がハニに掛けた言葉がその後のハニの人生を変える事になった。
「オ・ハニさん、パランの星のペク・スンジョの遺伝子を受け継げるのはあなただけです。それを名誉だと思って頑張ってください。」
天使のように可愛い看護学生のその言葉は、ハニにとって神からの御言葉のように思えた。
「グミさん・・・ちょっと・・・」
パク先生が何か伝言を聞き、それをグミに伝えた。
「判りました・・・・・ハニちゃん、ちょっとゴメンね。すぐに戻るから。」
もうハニには声を出す事が出来なかった。
開ける目には涙が潤み、その場を離れるグミは後ろ髪魅かれる思いだったが、仕方がなかった。
グゥーッと今までの痛みよりも大きな痛みが来て、気を失うかと思った時心が落ち着くような手が額に触れた。
「ハニ・・・・・ゴメン・・・・・遅くなった・・・・・」
その声は、ハニにとっての神の御言葉以上に有り難い声だった。
「ス・・・・・スンジョ君・・・・・・どうして?」
次の言葉をスンジョが言おうとした時に、するっと痛みが軽くなった。
「頭が出たわよ、あともう少し・・・・・・」
また大きな痛みが来てすぐに、元気な鳴き声が聞こえた。
産まれた我が子を処置してもらい、胸の上に乗せてもらって初めての対面。
まだ産まれたばかりなのに、スンジョによく似た綺麗な顔をしていた。
「ど・・・・どっち?お母さんに報告しないと・・・・・・・」
「とっても元気で綺麗な顔をした女の子ですよ。」
パク先生の言葉に、ハニは嬉しくて涙が出て来た。
グミの為に女の子を。
それが、頭にずっとあったから女の子だと聞いて嬉しかった。
グミはハニにとっては、実の母以上に大切な女性。
辛い時もどんな時も、親身になってハニを励ましてくれたから。
その母の願いをどうしても聞いてあげたかった。
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