ハニの戸惑い 62
「いい?パパ。抱っこをする時はこうよ・・・・首が座っていない時は・・・・」
「大丈夫だよ。わが社の自慢の≪抱っこ練習人形≫は、ちゃんと体重もスンハにピッタリと合わせてあるから。」
グミはハンダイの新製品の≪抱っこ練習人形≫を、今日この日に合わせてスチャンに2体用意させた。
「ママァ~、もういいでしょ?もう直ぐ・・・・・あっ!お兄ちゃんたちが帰って来た。」
ウンジョのその言葉に、グミはスリッパを脱ぎ捨てながら玄関のドアを開けた。
「まぁまぁ、お帰り!やっとお家に帰って来れたわね。スンハや~おばあちゃんとおじいちゃんと・・・・・・ウンジョおじちゃんが待っていたわよぉ~」
「小学生だから、まだウンジョおじちゃんと呼ばれるのは嫌だよぉ~」
そんなウンジョの言う事も判る、まだウンジョは中学生になったばかり。
兄夫婦の間に産まれた子供は、グミ待望の女の子。
産まれる前からハンダイが研究開発をしていた、≪抱っこ練習人形≫はスンハの誕生した翌日の7月7日に発売された。
≪抱っこ練習人形≫は、女の子はスンハと付けられ男の子はスンリと付けられ、わずか数日の間に売り切れ店が続出した。
「かわいいわねぇ~」
グミはハニからスンハを受け取ると、大人しく眠っているスンハをベビーベッドに寝かせた。
「お母さんの為に女の子を産む事が出来て本当に良かったです。」
「ハニちゃん、あなたが来てからこの家は良い事ばかりよ。沢山の子供をもっと産んでね。出来れば、双子を産んでくれるといいけど・・・・・・」
「おい、お袋いい加減にしてくれよ。ハニはスンハを産んだばかりだし、今は無事に大学を出られるように協力してくれよ。」
スンハの部屋から追い出すようにスンジョはグミを押し出した。
「お袋の事は気にするな。」
「でも・・・・・」
「今はお前の身体を回復させて、大学に戻る事だけを考えろ。」
産まれたばかりの我が子を見つめながらハニは何かを思って、それに決心したように口を開いた。
「スンジョ君・・・・・・私ね・・・・・看護学科に転科しようかと思うの。」
「看護学科に転科?」
「たった1週間入院していただけなんだけど、スンジョ君がお医者様になったら、ずっと傍にいるのにはどうしたらいいのかなぁ・・・・って思ってたの。私・・スンジョ君の奥さんとして家の事をやって過ごしてもいいのかもしれないけど、家事は苦手で・・・・・それなら看護師になったらずっと傍にいられるって・・・・・・」
無言でハニの話を聞いているスンジョに、ハニはまたお前には無理だと言うと思って諦めようとした。
「やってみろよ。」
「えっ?」
「看護師という仕事。」
「いいの?人の命に関わるから、お前には無理だって言うかと思った。」
驚いているハニの顔を、両頬で挟んで上を向けさせると優しくハニの目を見た。
「ハニが初めて自分からやってみたいと思った事だろ?やってみろよ。お前はどんなに困難でもやり遂げる力がある。このオレをハニに夢中にさせたように。」
ハニはスンジョのその言葉で、スンジョと同じ医療の道、看護師になるという事を決めた。
(ママ、もう大丈夫。スンジョ君のお母さんと一緒に、私は自分の夢に向かって行くね。ママが叶える事が出来なかった子供の成長を、私は見守りながら自分の夢を叶えるね。それが、可愛いスンハへの母としての姿を見せてあげる事に繋がるから)
優しくて優秀な医師になる夫スンジョとずっと一緒にいる夢に向けて、ハニは産まれたばかりの我が子に誓った。
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