グミの戸惑い 9
まだ小学生の子供なのに、スンジョは感情表現のない子供で、他の子供の様に元気に動く事はしなかった。
一人で静かに本を読む事の多い子供。
大人しい子供と言えば大人しい子供で、どこか冷めた感じで大人びていた。
そんなスンジョも、私の身体の変化に戸惑いながら気遣っている事は、母親として嬉しかった。
「ママ、お腹は重くない?」
「重くないわ。スンジョもママのお腹で大きくなったのよ。」
小さな手で大きくなってきたお腹に触れるスンジョは、何かを言っているように見えた。
そんなわずかな表情も、いつも見せているわけでもなく、直ぐに本に目を移していた。
「今度は元気な弟がいいな。」
スンジョのその一言は、ずっと私一人がショックを受けていたと思っていた事を、スンジョも一歳のお誕生日も送ることの出来なかった妹のルミを亡くしたことを悲しんでいた事に気が付いた。
今目の前にいる父親になったスンジョは、娘に自分の妹を重ねているのだろうか。
時々、スンハの新しい成長を見ると目を潤ませている。
いくら私でもそんな事でスンジョをからかったりはしない。
本当のスンジョは、家族思いで人を愛する事を一番の幸せだと思っているから。
「スンジョ君、スンハがお嫁に行く時は悲しむ?」
「別に。」
正直に言えない性格だと知っているから、ハニちゃんもその言葉に何も言い返さない。
こんなに可愛い妻と幸せな日々を過ごしてくれる事が、多分他の家庭では当たり前の事かもしれないけれど、スンジョにしたらとても大変な事だったと私は思うわ。
「スンジョ、子供はかわいいでしょ?」
「まぁ・・・・な・・・・」
「私の愛する可愛い嫁との子供を沢山期待しているわよ。」
「お母さん!」
この嫁でよかった。
一時はどうなるかと思っていたけど、スンジョにはハニちゃんが一番お似合いだと自分を信じていた事に間違いはなかった。
「スンジョ君、スンジョ君は子供が好きだから小児外科に行きたいの?」
小児外科・・・・・・・
子供が好きだから・・・・かもしれないけれど、きっとスンジョはルミの事をいつも思っているのよね。
「それもあるけど、病気の幼い子供が少しでも元気になるためにはどうしたらいいのか・・・・それを知るのはとても難しい事で大変だけど、難病で苦しむ子供を救う事が出来ればいいなとは思っている。」
「スンジョ君なら大丈夫よ。なんてったって、IQ200の天才なんだから。」
本当にこの嫁は、我が家の捻くれスンジョを信頼しきってくれていい嫁よね・・・・
「ハニちゃん、そのスンジョがあなたを何度泣かせたのか、数えていたの?」
「おい!余計な事を・・・・・・」
ハニはニッコリと笑ってスンジョを見上げて、グミの問いに答えた。
「ええ、判っているわよ。」
「お前、そんな事も数えていたのか?」
「そんな事もって・・・・だって・・・・・」
そう、ハニちゃんはそんな事も数えるくらいにとても可愛らしい私の嫁。
新婚当初はキスの回数だって、カレンダーの隅に記録していたのは私も知っているわ。
「ハニちゃん、スンジョは何度ハニちゃんを泣かせたのかしら?」
「お母さん、数えきれないくらいに泣かされました。」
さすが私の選んだ嫁。
今の答に、あのむっつり無愛想な息子が言葉を返せないでいる。
天才と言われた息子も、愛する妻には勝てる事は絶対にないわ。
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