グミの戸惑い 10
何の感情表現も見せないスンジョが、ハニちゃんと出会う前にただ一度だけ目を潤ませた事があった。
「お帰り、スンジョ。」
「パパ・・・・・・お仕事は?」
「今からママを病院に連れて行くんだ。」
スンジョは、その時グミが苦しんでいる姿を見て、赤ちゃんが産まれる事を子供であったがなんとなく気づいた。
「うん、行く。」
小学4年生になったスンジョは、同年齢の子供よりも背が高く、母親のグミの身体を支える力もあった。
「ママ、大丈夫?」
「大丈夫よ。」
車に乗っても顔の汗を拭いたり背中を擦ったりと、運転をしている父の代わりに母の世話をしていた。
その日のうちに産まれるかもしれないと告げられ、スンジョとスチャンは分娩室の前で待機していた。
「パパ・・・・・女の子かな・・・・・・」
「どっちだろうね。スンジョは弟か妹のどちらがいいか?」
「弟が欲しいけど、ママは女の子が欲しいってずっと言っていたよね。」
ルミが産まれる前から、もっと前のスンジョが産まれる前から、グミはずっと女の子を欲しがっていた。
スンジョが産まれた時、用意していた洋服類が女の子の物ばかりで、それを勿体ないからと男の子のスンジョに着せていた。
良く似合っていた事もあって、幼稚園に上がり女の子の服装を嫌がるまでずっと着せていた。
その頃にルミが産まれて、グミは今度は堂々と女の子だと言えるし、女の子の洋服を着せる事が出来ると喜んでいた。
それが、先天的に心臓に欠陥があり、1歳の誕生日を迎えるまで生きる事が出来なかった。
その事はグミだけではなく、スチャンやスンジョも悲しくて暫く暗い雰囲気だった。
何度も立ち直ろうとしては落ち込み、それではダメだと思ってもなかなか気持ちの切り替えが出来なかった。
手の掛らないスンジョが、母であるグミにも体調が悪い事を言わないで、一人で苦しんでいた姿を見た時に、やっとグミは気持ちを切り替える事が出来た。
その矢先の妊娠だった。
スチャンもスンジョも、今度は大丈夫だと言い聞かせて、ドアが開くのを待っていた。
「弟だったら、きっと元気だよ。」
そうスンジョは自分の心で呟いていたら、父スチャンが声に出した。
二人は同じ考えだと、顔を見合わせた。
明るいグミの悲しむ顔は見たくはない。
夜8時近くになり、スンジョが眠くなってうつらうつらとした時、厚い扉の向こうから聞こえる泣き声。
目を開けて顔を上げると、ドアが開いて立ち会った看護師が二人の前に姿を現した。
0コメント