小さなライバル達(スンハ) 30
ラウンジは昼食時と重なって、患者や病院職員が談笑しながら食事を摂っていた。
人の熱気と、食べ物の臭いが入り混じって今のハニにはちょっと辛かった。
「スンジョ君・・私・・・・やっぱり・・・・無理・・・・・」
顔をしかめて辛そうにするハニを気遣うように、心配そうにスンジョはまたエレベーターの方に向きを変えた。
「売店で軽食を買って、外のベンチで食べようか?」
ハニは首を横に振った。
「無理・・・・・・どうしてかな?三人の子達の時は・・・・・こんな風にならなかったのに・・・・・・吐きそう・・・」
直ぐ近くにある車イス用のトイレが空いている事に気が付いたスンジョは、ハニの腕を引いてそこに入っていった。
「ここなら大丈夫だ・・・・・」
ハニはスンジョに外で待っていてと、合図を送ったがスンジョは一緒に中に入って来た。
「お前が一人で苦しんでいるのを、外で待ってろなんて言うなよ。楽しい時も苦しい時もずっと傍にいると結婚式で誓っただろう?」
後ろ手でドアの鍵を掛けて、辛そうに吐いているハニの背中をそっとなぜた。
何度か吐いたら、少し楽になったハニはホッとしたように少し笑顔を見せた。
「ありがとうスンジョ君、もう・・・・・スンジョ君?どうしたの・・・・・・」
「なんでもな・・・・・ぅっ・・・・・ハニ・・・・・・悪い・・・・・」
ハニを押し退けて、今度はスンジョが便器に向かって吐いた。
さっきとは逆になった形の二人。
スンジョの広い背中を一生懸命に擦っては心配そうに顔を覗きこむハニ。
「大丈夫?・・・・・・・」
片手を上げて大丈夫だという事を伝えた。
手洗いの所で順番に口を漱いで、顔を見合わせた。
「う・・・移っちゃったのかな?スンジョ君に・・・・・・・」
「そんな分けないだろう・・・・・・・まっ、今のうちに食べておかないと、午後の診察が混むかもしれないな。」
「そうだね。」
ハニに言われる前から、自分の体調がハニの妊娠によって変わっている事にスンジョは数日前から気づいていた。
だけど、それが自分以外の人に知られたくなかった。
特に、グミにだけは。
パラン大病院の裏庭には、芝生に覆われた小高い丘がある。
スンジョとハニと二人の子供たちは、時々病院で合流した時にここでお弁当をよく食べる。
大きな銀杏の木の下にあるベンチに座って、二人の子供たちが通っているパラン大付属の小学校と幼稚園がよく見える。
「外で食べるなら、大丈夫そう。お腹が空いて来ちゃった。」
「ハニらしいな。」
幼稚園の園庭に子供たちが出て来たのか、賑やかな声が離れた所にいる二人にも聞こえて来た。
「スンジョ君・・・・・あれは・・・・スンリ・・・・・・」
ポツンと一人だけ離れているスンリが、ハニ達の所からもよく見えた。
「なんだ、アイツは友達と遊ばないのか?」
ぶらぶらと元気がない様子のスンリを、二人はどうかしたのか心配になって来た。
「家に帰って来たら、聞いてみるね。」
「そうしてくれ。じゃあ、仕事に戻るから。」
二人は、笑顔で手を振って別れた。
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