小さなライバル達(スンハ) 68
「良かったね。まだ、アッパは帰って来てないよ。」
ガレージの中には、まだスンジョの車が戻って来ている形跡が無かった。
「いい?スンリ、絶対にアッパに話したらダメよ。指切り!」
ハニはスンリの顔の前で指を一本立てた。
スンリと指きりの歌を歌っていると、ガレージのシャッターが開く音が聞こえて来た。
ハニとスンハとスンリは同時に大きく息を吐いた。
「ハァーッ」「ふぅー」「ホッ!」
息を吐く時の声がこんなにいくつもあるとは思わなく、三人は思わずクスッと笑った。
「ただいま。」
スンジョが玄関のドアを開けると、ヨチヨチと歩き出したスンミの背の高さに合わせてスンジョがしゃがんだ。
「おっ!スンミが歩いたぞ。ほら・・・アッパはここだぞ。」
「スンミが歩いた、スンミが歩いた。おじいちゃんのお蔭だね。」
スンリの口の軽さにドキッとしたハニに対して、スンハはスンリの頭をゴツンと叩いた。
一瞬何で頭を小突かれたのか判らなかったが、指切りをした数分前の約束を思い出した。
「ス・・・スンジョ君、お風呂にする?それともご飯はまだ出来ないけど・・・・・」
「書かなければいけない事があるから、部屋までコーヒーを持って来てくれるか?」
スンジョはスンミを抱き上げて、プレイマットの近くまで行くとその上に降ろした。
「ハニ、疲れただろ?」
夕食を並べているハニの手が、ビクッとして一瞬止まった。
「なっ?家にいるんだもの疲れるわけない・・・・・よ。」
動揺しているのが判るくらいに、ハニの声が上ずっている。
ダイニングのテーブルには、昔に比べてかなり上達した無国籍料理。
子供たちはそんな料理でも、オンマが作ったご馳走と言って喜ぶ。
「どこかに出掛けたんだろ?おかずが冷めてる。」
「出・・・・出掛けてないよ。時間があったから早く作って、スンミと昼寝をしちゃっただけ。」
「フゥ~ン、病院でエレベーターに乗る人の背格好と髪の毛の色に、子供の年齢と服に見覚えがあるんだけど・・・なぁ。ベビーカーについている飾りはお袋が作った手作りなんだけど・・・・同じ物を誰かにあげたのかな?お袋は。」
チラリと見るがハニは顔を赤くして、何も知らないとでもいうような顔をしていた。
「ありがとう・・・親父の見舞いに行ってくれて。」
「スンジョ君、知っていたの?」
「知っていた。お前の変装はお袋と一緒で、バレバレでヘタ過ぎだ。それに、行くだろうと思っていた。今日で良かったよ。朝から親父の調子が安定していたから。」
安定していても確実に最期の時に近づいている事には変らない。
スンジョがそんな事を言わなくてもハニには判っていた。
家族とリビングで過ごしていても、最近時々ウッドテラスに出て考え込んでいた事を。
グミやギドンと三人で話し込んでいる事もあった。
ハニが心配しない様に、ハニがいない時にスンジョが毎日病状の説明をしていた事も、ハニは気が付いていた。
お父さん、来月この子が産まれるまで、頑張ってくださいね。
スンハやスンリとスンミを可愛がってくれたスチャン。
ハニは自分の母親を幼い時に亡くしているけど、親が亡くなるのはスンジョでも辛い事。
スチャンはスンジョを、大切な長男として見守っている理解者だったから、一日一分一秒でもいいから長く生きていて欲しいと願っていた。
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