小さなライバル達(スンハ) 70
「何だか眠れないなぁ・・・・・今日、オンマが家に戻って来たし、スンスクも増えて急に賑やかになった所為かなぁ・・・・・なんか飲んだら眠れるかも。」
スンハは枕元の時計を見てベッドから出た。
もう家族は寝静まっている時間。
静かに部屋のドアを開けると、ダイニングの方から灯りが漏れている事に気が付いた。
「誰か起きているのかな?」
静かに階段を一段降りると、声が聞こえて来た。
「アッパとオンマが話をしてる・・・・・・なんだかやだな・・・・時々キスしてる時があるから・・・・」
そうっと様子を伺いながらスンハは階段を降りた。
ダイニングテーブルに肘をついて顔を隠しているスンジョの後ろから、ハニが肩越しに手を伸ばしてスンジョを抱きしめていた。
そのハニの手にそっとスンジョが手を添えた。
「オレだけだな・・・・・・親父がもういないのに涙ひとつ見せないのは。子供の頃からオレの考えを尊重してくれて<スンジョは間違った事はしないから>そう言って自由にさせてくれた。
後継者になって欲しかったのに、結局オレの意見を通してくれて、黙っていつも見守ってくれていたのに・・・・どうしてだろう・・・泣く事が出来ない。胸に何かつっかえて、苦しくて・・・・・・・仕事仲間からも<お前は冷静だよ。親が亡くなったのに涙を見せないなんて>・・・・そうじゃないんだ。泣きたいのに、どう泣いていいのかも判らないだけなのに・・・・・・」
スンハは階段に腰を下ろして、両親の話を黙って聞いていた。
スンジョとハニのいるそこだけが、誰も近づけない空気が流れていて、息をするのを忘れてしまいそうだ。
「スンジョ君・・・言っていたよね。私の横だと本当の自分になれるって・・・・・泣いていいよ、私の前では無理をしないで泣いていいよ・・・・・だってスンジョ君、本当は凄く優しくてお父さんが大好きなんだもの。だから声を出して泣いていいよ。」
アッパも悲しかったんだ・・・・アッパの広い背中があんなに小さくなって後ろから抱きしめているオンマの方が大きく見える。
ハニはスンジョの横に移り、自分の胸にスンジョの頭をもたせ掛けた。
身体の小さなハニが、スンジョを大きな羽で包むように抱きしめると、絞り出すようなスンジョの泣き声が聞こえて来た。
スンハは初めて父が声を出して泣いている事に、自分もつられて涙を流していた。
そんな光景を見て、スンハは思った。
今まで、アッパは家族を守って来たと思っていたけど、本当はオンマがアッパを守って来たから家族が守られていた事に気が付いた。
スンジョの絞り出すような泣き声とその光景を見て、思わずスンハも声を出して泣きだした。
「オンマ・・・・・オンマ・・・・」
「スンハ?どうしたの?」
スンジョから離れてハニはスンハの方を振り返った。
その時のスンジョは、子供の目からもはっきりと解るくらい目が赤く、涙が頬を
伝っていた。
「オンマァ~・・・・・・・」
階段から勢いよく駆け寄り、スンハはハニに抱きついた。
「スンハ・・・・・・アッパもオンマも大好きだよ・・・・・・・だから・・・・アッパにはオンマが必要なんだって・・・・・アッパが泣かないから・・・・アッパは悲しくないと思ったのが間違っていた事を始めて判った・・・・・ごめんなさい。アッパも悲しかったんだね・・・・・・沢山泣いていいのに・・・」
あの時の光景を見て私は思った。
アッパがいるからオンマが幸せそうに笑えて、オンマがいるからアッパが私たちを守ってくれるって。
学校に来るおかあさん達が、アッパみたいに素敵な人がどうしてオンマと結婚したのか判らないって。
勉強だって、小学校の私の勉強も判らないくらいなのに、オンマはそれ以上に素敵な能力があるってアッパは知っているんだ。
こんなに素敵な両親の元で産まれて、私は世界一幸せな女の子だ。
私もアッパみたいに素敵な人に出逢いたい。
私は、アッパの事が大好きだけど、オンマの事をもっとアッパ以上に大好きになった。
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