小さなライバル達(スンハ) 76
今日の様子からしてハニはまだ帰って来ていない事は判っている。
気が重く感じてはいるが、普段通りに玄関のドアを開けた。
「アッパ!お帰りなしゃい。」
3歳になるスンミがスンジョのスリッパを持って玄関先で出迎えてくれた。
「ああ・・ただいま。」
スンミがスリッパを揃えてスンジョの足元に置くと、顔をスンジョの方に見上げてニッコリと笑った。
「アッパ、スンミの事しゅき?スンミ・・・アッパしゅきだよ。」
笑ってスンミがスンジョを見ると、ハニと重ねてしまう。
「ああ・・・・好きだよ。」
いつものように抱っこをせがむ為に両手を差し出した。
同年代の子供よりも小柄で成長の遅れが少しあるスンミをスンジョは特に可愛がっていた。
スンミの一つ一つがハニと本当によくにているスンミが可愛かった。
スンジョはスンミを抱いてダイニングに顔を覗かせた。
ダイニングの様子を伺っていると、夕食を並べていたグミがスンジョに心配そうに聞いて来た。
「ハニちゃんと話をしたの?」
「いや・・・・・・」
「ハニちゃんが悲しい時は殆どあなたが悪い事が多いのよ。今日もスンハの体育祭に・・・・・」
「見に行ったんだろ?」
スンジョの言葉は感情が入っていないような話し方だからなのだろう、冷たくどうでもいいとでも言っているような言い方に聞こえる。
「来たわよ。でもね・・・チラッと私と目が合ったら、顔をさっと隠して走って行ったのよ・・・・・・隠れるようにしてスンハを見てるなんて・・・・・・・スンジョったら何をハニちゃんに言ったのよ。」
「何も・・・・・・」
確かにスンジョは何も言っていない。
言っていないからハニが怒って家を出て行ったのだ。
「着替えて来る・・・・・・」
スンジョはスンミを抱いたまま、二階の部屋に上がって行った。
数時間前。
ハニは古くて小汚いウイークリーマンションに、ポツンと座っていた。
ウイークリーマンションと立て看板に書かれていても、ただの古い共同住宅。
「子供たち心配しているんだろうな・・・・・でも、少し待っていてね。」
鞄の中に忍ばせていた一枚の写真をハニは眺めていた。
考えても考えても子供の事を思うと、こんな事をしてもいいのかと自分でも考えてしまう。
スンジョが今一番忙しくて、眠る暇もないくらいに論文を書き、診察にオペにと疲れもピークに来ている事くらいハニ自身よく判っていた。
家族を一番に考えている事も判っていたが、話をしたかった。
相談してそれについて何か言って欲しかった。
その思いが強すぎて、思ってもいない事を言って、後悔していた。
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