小さなライバル達(スンハ) 79
「どうして病院からも家からも遠いこのクリニックに来たんだ?」
「・・・・・・・・・・」
唇をグッと噛みしめて話そうとしないハニに、ほんの少し心の片隅に残っていた疑問が膨らみ始めた。
「オレに言えない秘密でもあるのか?」
「・・・・・・・・・・・」
目も合わせないで、避けるようにしているハニの両腕をグッと引き、スンジョはハニを自分の方に向けるようにした。
「最近・・・・・オレが忙しかったからそうしたのか?」
「えっ?」
ようやく口を開いたハニは、スンジョが何の事を言っているのか判らないような顔をした。
「お前・・・・・看護学科の時からギョルとは仲が良いよな?まぁ・・ギョルはお前に対して特別な感情を持っていた過去があるし、現在も独身だ・・・・・」
「何の事?何を言っているの?」
「恍けるのか?オレが忙しくてお前を相手にしなかったから・・・だから・・・アイツと・・・・」
そこまでスンジョが言うとさすがのハニも何をスンジョが思っているのか気が付いた。
「もしかして・・・・スンジョ君・・・・」
クスッと、ハニは声を出して笑った。
「何がおかしいんだ?笑って誤魔化すのか?オレに言えないから、だからパランからも家からも遠いこのクリニックに来て・・・・・・アイツの子供か?」
ハニはスンジョと喧嘩をして、避けていた事をすっかりと忘れたようにコロコロと声を出して笑い出した。
「何だよ。何がおかしいんだ?」
「スンジョ君・・・焼きもち妬いてるんだ。」
きっとスンジョは初めてだろう。
言葉が出ない程ハニの言った事を理解できなかったのは。
「違うよ・・・・ギョルとは何もないよ。この子はスンジョ君の赤ちゃんだよ。」
ハニはまだ膨らみもないお腹に手を当てた。
「別に誰かに隠すつもりでこのクリニックに来たのじゃなくて、先週の水曜日にミナの家に遊びに行くバスの中で気分が悪くなって途中下車したの。その時近くに居た人がこのクリニックの先生で、時間外だったけど診察してくれてその時に判ったの。赤ちゃんが出来ていた事・・・・」
ハニがあの時に言おうとしていた事はこの事だったのか・・・・・・
子供が4人いて年齢的にも若くないからオレに相談したかったのか?
「スンジョ君、全然私の顔も見てくれないし、話す時間も無くて。でも、お母さんとスンハは知っているよ。この子の事。」
「どうするんだ?産むのか?」
「だめ?この歳になって産むのは大変だけど、一人亡くした子供の事がどうしても忘れられなくて・・・・・・・あの子がまた来てくれたって思うの。それに看護師が自分の子供を産まないなんて良くないよね。」
すぐにハニに返事が出来なかった。
何も迷う事など無いのに、ハニが間違った事などしない事も判るのにどうしてかスンジョはハニから告げられた事に応えなかった。
気を付ければこんな風にハニと喧嘩をしなくても良かった。
子供は嫌いじゃないけど、自分たち夫婦には5人子供が産まれるのに、弟夫婦には子供は1人だけ。
それも、最初の子供ウジョンを産んだ時に無理がたたってミアはもう子供が産めない。
同居しているだけに、素直にハニに産んでもいいとは言えなかった。
「ハニ・・・・考えないといけなかったな。オレ達・・・・・・」
スンジョの考えていることはハニにも判った。
「ミアね・・・・・・自分の代わりに私に産んでって・・・・・・前にスンスクが出来た時にそう言ったの。<お姉さんが私の代わりに赤ちゃんを産んで>って。あの時も迷ったんだよ、どうしようかって。それでもちゃんとスンジョ君と相談して決めた方が良いと思ったんだけど、喧嘩しちゃったでしょ?それでまたこのクリニックに来て、手術の同意書を書いたの。」
ハニはそう言うと枕の下から手術の同意書を差し出した。
「いざ手術室に入ったら、ミアが産んで欲しいって言ってくれた事を思い出したら・・・・それに芽生えた自分の子供の命を・・・・・・亡くした子の事を思い出したら、自分の手でこんな事をしたらいけないと思って・・・・・・・止めちゃった・・・・・手術するのを。」
オレが自分の事で精一杯で疲れて家に帰り、考えている事がすぐに顔に出るハニなのに、考えている事を気付いてやれなかったんだ。
「いいよ、産もう。亡くした子供がまた来てくれたんだから。」
スンジョはハニを久しぶりに自分の胸に抱きしめた。
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