小さなライバル達(スンハ) 80
古びれたモーテルの部屋のドアの鍵をハニが開けて、軋む音のするドアを開けた。
薄暗くオンドルも壊れているのか、寒々とした部屋の中の隅に見覚えのあるハニのキャリーバックがポツンと置かれていた。
「座って・・・・・。荷物をまとめるから。」
荷物をまとめると言っても、身の回りの物だけを持って出て行ったから何もする事などなかった。
「この部屋に泊まったのか?」
「うん・・・お金をあまり持たないで家を出たから・・・・一週間泊まる事を考えたらオンドルが壊れていたっていいから安い部屋を探したの。」
形だけの折り畳み式の机の上に置かれていた写真をスンジョは手に取った。
「いつだ?予定日。」
「6月6日・・・スンジョ君の誕生日と一緒だよ。」
「そうか・・・・・片付いたら帰るぞ。」
差し出されたスンジョの手を嬉しそうにハニは取った。
グイッと引っ張られるとそのままハニはスンジョの胸に抱かれるようにすっぽりと収まった。
「ごめんね・・・スンジョ君が勢いよく引っ張ったから・・・・・・」
身体を離そうとするハニをスンジョはグッと更に引き寄せた。
「スンジョ君?」
「家だと、誰が部屋に入ってくるかわからないから思い切りハニを抱きしめる事も出来ない。ここならこうしても誰も来ない。」
「スンジョ君の・・・・エッチ・・・・」
「バーカ、こうするだけだ。」
ハニはスンジョの背中に腕を廻した。
温かくて広いスンジョの胸に耳を当てると、規則正しく動く心臓の音が伝わってくる。
「ハニ・・・ごめん。出世の事なんて考えて家族を相手にしなかったわけじゃない。」
「私の方こそスンジョ君がそんな事を考えない事くらい判っていたのに・・・・・」
「黙って聞いて・・ハニが見つけてくれた道をずっと進むために教授昇進の話を受けたんだ。ハニやスンハ達子供がいるから頑張れる。お前を泣かせない淋しいと思わせないと決めていたのに、いつになったらそんな風にお前が涙を流したりしないように出来るんだろうな。お前が笑っているから、オレの気持ちが休まるんだ。本当にごめん。」
何度も何度もスンジョはハニに謝った。
スンジョの人生で唯一謝った事のある人間は、ハニだけだ。
「ほらスンハ。アッパとオンマが一緒に帰って来たわよ。」
グミとスンハとスンリとスンミ・スンスクがクラッカーを構えた。
「せーのぉ~。オンマお帰りなさい。」
パンパァ~ン
耳を劈く(つんざく)様な音に飛び上がらんばかりのハニの身体をスンジョはそっと支えた。
「お袋にスンハ達・・・・・」
こうなる事が判っていたような歓迎ぶりに、一言言おうと思っていたスンジョだったが、まだ小さいスンミやスンスクの前では言う事も出来ない。
テーブルに並んだ食事も、待っていたように温かな湯気が立っていた。
「オンマ、スンミね、たくさんアッパにしゅきって言ったよ。」
「僕ね、おばあちゃんと寝たよ。」
小さい二人は我先にとハニがいない間にした事を話していた。
「あのね・・・おばあちゃんとスンハには話したのだけど・・・・・・オンマね・・・赤ちゃんが出来たの。」
「ホント?ホントなの?」
スンミとスンスクはまだよく判っていないが赤ちゃんが産まれる事に大喜びだが、思春期に入りかけている小学校3年のスンリは何やら考え込んでいた。
「ところでスンリ、保育園の先生にスンミとスンスクの紙パンツを預けたけど、先生が不思議そうな顔していたぞ。」
「何なの紙パンツって・・・・・」
スンリは立ち上がって頭を下げた。
「ごめんなさいアッパ。いつもオンマはあんなにたくさん保育園に預けていません。アッパにオンマの家での仕事がこんなに多いことを教えたくて・・・・」
「いいさ、アッパはお前たちの事をオンマにまかせっきりだったから。論文も一段落ついたし、週末に別荘に皆で行く事を考えていたけどどうする?」
全員一致で週末は久しぶりに家族揃って別荘に行く事になった。
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