小さなライバル達(スンハ) 96
「ノッシノッシとゾウさんが歩いています。」
字が読めるようななったスンミは、スンスクに絵本を読んでいた。
「ノッシノッシと大きなからだを揺らして、歩いています。」
小さな二人が並んでウッドテラスのベンチに座っている姿を、向かい側のベンチに座ってお茶を飲んでいるグミはしあわせそうな笑顔で見ていた。
「でも、ゾウさんはそそっかしくていつもみんなが心配しています。そんな時、ゾウさんはボウッとしていて坂から転げ落ちてしまいます。」
日頃から大人しくて無口なスンスクは、階段から降りてくる大きなお腹をしたオンマを見ていた。
スンジョはソファーの自分の指定の場所に深く腰掛けて新聞を読んでいた。
「あっ!ゾウさん危ない!」「あっ!オンマ危ない!」
スンミの読んだ時と、スンスクの叫んだ時が同時で、グミは何が起きたのかよく判らなかった。
二人の小さな孫たちの視線の先を辿って、それが家の中の階段付近に注がれている事に気が付いた。
「ハニちゃん!大丈夫?」
もう少しで転びそうになった時、咄嗟にスンジョが駆け寄って一難を避ける事が出来た。
「お母さん大丈夫です、スンジョ君がすぐに来てくれたので・・・・・」
「何をやっているんだよ。自分のお腹の大きさを考えて階段から降りて来い。この・・・・ドジ!」
そう言ってもその言葉がスンジョの本心じゃない事くらいハニにも判っている。
「ごめんなさい・・・・」
ハニは臨月に入りいつ産まれてもおかしくないくらいに大きなお腹になっていた。
スンスクとスンミが絵本を持って二人の所に来た。
「オンマ見て!これオンマに似てるね?」
ゾウと自分が似ている・・・・そんな小さな二人の言葉に、何も言えずポカンとしている横で、スンジョが声を押し殺して笑っている。
「スンジョ君!笑わないでよ・・・・・・・私こんなにお腹が大きくて足が太くて短いかしら?」
「子供の感性は大人では思いつかない事が有るんだ。似ているかどうかは別として、この絵本のゾウより多分スンミもスンスクもそそっかしいお前を心配しているんだ。」
「そうなのぉ~さすがオンマの子供ね。アッパに似たら絶対に体型が似ているから階段から落ちそうになるって言うんだから。」
スンジョには判っていた。
スンミもスンスクも体型が似ているから階段から落ちそうになる、そう考えていた事を。
ハニは、今度は一歩一歩ユックリと歩いてトイレに向かった。
「おい、ハニ。またトイレか?」
「うん・・・・・朝からトイレが近くて・・・・お腹が大きくなったからきっと膀胱が押されているのね。」
朝から頻繁にトイレに行くハニの後姿を、スンジョが心配そうに見ていた。
準備をしないといけないな。
そう思っても、午後からスンジョは出張に出かける予定だ。
今までにまともに出産に立ち会えたのはスンリだけ。
スンスクの時も立ち会ったが、スチャンの危篤と重なっていたから分娩室と病室を行ったり来たりしていた。
「兄貴、どうかしたのか?」
ウジョンを散歩に連れて行こうと抱いていたウンジョが、振り返ってスンジョに聞いて来た。
「産まれるのが近いかもしれない。」
「義姉さん、陣痛始まったのか?」
「多分・・・・・・オレは午後から出張だ。万が一の時は、子供たちをウンジョに頼んでお袋に付き添ってもらってくれ。」
「判った・・・ミア、お前も協力してやれよ。」
「はい。」
そんな三人の会話も知らないで、ハニはトイレから一度出てまた入り直していた。
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