小さなライバル達(スンハ) 126
気・・・・気持ち悪い・・・・・・吐きそう・・・・・
産科希望のスンハは、出産する妊婦に実習の為立ち会っていた。
「す・・・すみません・・・・・吐きそうです・・・・・・」
指導教員がスンハを呆れた顔で見ていた。
「ペク・スンハ、産科希望なのに出産に立ち会って吐きそうになるのはこれで何度目ですか?去年の解剖学の時は吐かなかったでしょう。」
「すみません・・・・・・」
「いいわ、行ってらっしゃい。レポートを30枚書いて提出をしないと点数はあげませんから。お父様に報告しますからね。」
妊婦とその夫にはそのやり取りに気が付かなかったのか、スンハが分娩室から出て行くのを心配そうに見ていた。
産科の実習が終わった学生と指導教師が、講義室まで移動しているのをスンジョは見かけた。
最近殆ど毎日実家に戻って来るスンハの顔色が悪いのを心配して、移動している学生の中にスンハがいないのを不思議に思い近づいた。
「ねぇ、スンハって最近変じゃない?」
スンハが変?
「そう思うよね。妊娠しているんじゃない?薬品の臭いを嗅いで大した匂いでもないのに吐いたり、出産に立ち会うって言ってもいつもすぐに吐くでしょ?」
妊娠だって?
相手もいないのに、妊娠が出来るか。
「それに最近先輩と一緒にいないけど、妊娠が判って逃げられたんじゃない?」
付き合っているヤツがいたのか?
「教授って、IQ200の天才でも、恋愛偏差値が低いでしょ。だから娘が妊娠しても気が付かないんじゃない?子供も多いし。おまけに奥さんは最低の看護師らしいし。」
スンジョは最後の言葉にムッとした。
自分は何を言われても何とも思わないが、娘の事を興味本位で噂し、ハニをバカにしたような言い方に、我慢が出来なくなった。
「誰の奥さんが、最低の看護師だって?患者とのコミュニケーションはパラン一だ。」
「誰の奥さんって、ペク・教授の奥さんで医学部のペク・スンハのおか・・・・・・・!教授!」
振り返った学生は、直ぐ近くにスンジョがいる事に飛び上がって驚いた。
「噂話で人を陥れるような人間は、人命を預かる医師には不向きだ。考えを変えなさい。」
噂話をしていた学生は、その場を逃げるようにして走り去った。
その騒動に気が付いた産科の指導教師が、スンジョに近寄って来た。
「ペク教授。娘さんの事ですが・・・・・・」
「吐いたそうですね。」
「はい・・・・以前は、そんな事がなかったのですが、最近はよく吐くのですよ。成績は優秀なので、問題はないのですが。医師には向かないのかもしれないです。一度ご自宅で話し合っていただけませんか?」
「判りました。」
スンジョは、反対側の廊下にあるトイレから出て来たスンハを遠目に見て、その様子を伺った。
片想いをしていると言っていた相手とそんな付き合いをしていたのか?
独り暮らしをしたいと言った時に約束はしてあったが、学生ではあるが成人した大人だから信じていた。
吐いてばかりいるスンハはやつれているのが、離れていてもそれがよく判るほど顔色も悪かった。
「ただいま・・・・・」
「あっ!スンハお姉ちゃんだ。」
毎日帰って来るスンハを、弟と妹たちは喜んで迎え入れる。
「アッパ、ただいま。」
力のない声のスンハに気が付いたハニが話しかけた。
「夕食まで時間があるけど、何か食べる?」
「いらない・・・・・・部屋で休みたい・・・・・」
兄妹のおやつの臭いにスンハは、グッと込み上げて来そうになるのを堪えた。
スンジョはそんな様子を見て、持っていた新聞を畳んで横に置いた。
「スンハ、お前妊娠しているのか?」
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