小さなライバル達(スンハ) 130
病院から出て来てからのインスンは、黙ったまま何もしゃべらなかった。
おしゃべりなスンハが、一言もしゃべらないという事はもしかしたらインスンにとって初めての出来事かもしれない。
スンハは不安だった。
自分が言いだした事ではあったが、検査の結果をインスンが喜んでくれなかった事は不安だった。
「インスン・・・・私一人で生んでもいいよ。誰にも言わないからインスンの事。」
「へっ?」
スンハのこの言葉に、インスンの声は裏返った。
「だって・・・妊娠が判ってから、ずっとインスン・・・・・私に喋ってくれないもの・・・・・・・・」
「違うよ・・・怖いんだ・・・・父親になる事もそうだけど、一番はペク教授に怒鳴られるような気がして・・・・・・それが一番怖い。」
「そうだったんだ・・・・でもね、私のマンションを通り過ぎたんだけど。戻ってくれない?」
「へっ!あ~ぁ、ゴメン。」
二人は思わず吹き出して笑っていた。
車をマンション前の駐車場に停めようとした時に、指定場所にスンジョの車が停められていた。
「インスン!・・・アッパの車!」
「イッ!?・・・・・・今、言うのには心の準備が・・・出来ていない。」
スンハはゴクンと唾を呑み込んで、シートベルトを外した。
「待っていて。部屋に行って、アッパの機嫌がいいのか見て来るから。電話するまで待っていて。」
スンハはそうインスンに言って、マンションの中に入って行った。
静かに玄関のドアを開けて部屋の中に入った。
「ア・・・ッパ・・・・・・」
書棚から本を探していたスンジョは、声を掛けたスンハの方を振り向いた。
「帰ったのか?」
機嫌は悪くなさそうなスンジョに、勇気を出してインスンとインスンの子供を妊娠した事を話そうと思った。
「あのね・・・・話があるんだけど・・・・・」
スンジョは取り出した本を数冊バックに詰めて上着を取った。
「今から出張だ。時間が無いから、今度時間のある時に聞くよ。」
よく見れば大きめのキャリーバックも部屋の隅に置かれていた。
「出張・・・・長いの?キャリーバックが大きいけど。」
無表情なスンジョが優しい顔で笑って、キャリーバックの方を顎で指した。
「オンマが、アッパの誕生日の祝いの前には帰って来てくれって言っていたから、それまでには終わらせて帰って来る。」
全くうちの両親は、バカップルなんだから・・・・とスンハは思った。
今すぐに言わなくて良かったと思う反面、スンハは暫く言えないままでいいとは思えなかった。
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