スンリのイタズラなKiss 51
ったく、腹が立つ!
ソラとオレは学部が違うから事情が違う事が判らないのか?
「えぇーい、クソッ!」
スンリはソラと大学で大喧嘩をして、普段のスンリとは思えないほどに怒っていた。
「お兄ちゃん・・・・・・何かあったの?」
「ごめん・・・スンスク、なんでもない。」
普段から物静かなスンスクが、スンリがイラついている様子を心配そうに見ていた。
「試験か?」
「うん、明日が最高に大変な教科ばかりなんだ。」
「おまえなら大丈夫だろ?邪魔したな・・・・下で何か飲んでくるけど、スンスクも飲むか?」
「僕はいいよ。兄弟の中で僕だけが太りやすいから、あまり間食はしないようにしているんだ。」
スンリの弟スンスクは、7人の兄弟の中でただ一人だけ似ていなかった。
と言っても家族の誰とも似ていないわけじゃなく、無くなったスチャンとよく似ていて、いつも穏やかな顔で静かに笑っている子供だった。
「お袋、キッチンに入ってもいいか?」
「いいよ。何か食べたい?」
「お袋のコーヒーが飲みたい。」
「待っててね、ちょうどスンジョ君も欲しいって言ってたから。」
いつまで経ってもお袋は親父の事を<スンジョ君>と言っている。
友達の両親はお互いをそんな風に呼ぶ事はないのに、うちの両親は学生結婚をしたからなのか、いまだに学生時代の呼び方だ。
「相変らずお袋は親父の事を“君づけ”で呼ぶんだな。」
「変かなぁ・・・・スンジョ君も何も言わないからねぇ。いまさらアナタとかダンナサマとかは呼びにくいじゃない。」
「ふぅ~ん。一度も他の呼び方で呼んだ事はないの?」
「あるよ・・・・一度だけね・・・・フフ・・・・スンハがインスンを連れて来た時に・・・頼まれて・・・・」
「なんて呼んだの?」
いつまでも若く見える可愛い母は、スンリ達子供には自慢の母だった。
「お誕生日プレゼントでね・・・・・・<アナタ>って呼んだの・・・ぁあ~恥ずかしい・・・・・」
本当にお袋は恥かしいんだな。
顔が真っ赤だ。
「知りあった頃から仲が良かったの?」
ハニはスンリにコーヒーの入ったマグカップを渡すと、先ほどまでの表情と変わって眉間にしわを寄せていた。
「昔はね、意地悪で・・・・オンマをからかったり泣かせたりしていたの。でね・・・・喧嘩をすると冷徹男!ってスンジョ君の事を呼んでいた。」
冷徹男・・・・・
今の親父からは想像できない呼び方だ。
「親父にコーヒーを持って行くんだろ?オレが持って行くよ。」
「そう?お願いね。」
ソラもお袋みたいに、こんな風にオレに話をしてくれればいいのに、アイツは絶対にあのテニス病の親父似だな。
スンジョの書斎のドアをノックすると、すぐに返事が返って来た。
入口に背を向けて調べ物をしている親父は、いつもお袋を包み込むように見ている。
「スンリだろ?」
「ああ」
どんなに静かに歩いていても、親父は子供一人一人だけじゃなく、家族全員の足音を聞き分けられる。
「一緒にコーヒーを飲もうと思って。」
ミニテーブルにトレイと自分のマグカップをスンリは置くと、伸びをしてからスンジョは椅子を回転させた。
「話があるんだろ?」
「判る?」
「誰にも聞かれたくないから、コーヒーを持って来たんじゃないのか?」
「さすがだな。」
お袋がオレとスンスクの初恋の相手なら、親父はオレとスンスクのある意味恋敵だ。
一生かかっても勝てない相手だけど。
「親父・・・・・ソラのお母さんとは、どんな関係だったの?」
一瞬だったが、初めて見た親父が表情を変えて難しい顔になったのを。
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