スンリのイタズラなKiss 53
「おにいちゃん、あそんで!」
ウッドデッキで本を読んでいると、退屈していたのか双子のスングとスアが寄って来た。
「誰もいないのか?」
「いない、オンマはお茶碗洗ってる、アッパはお部屋でお仕事。」
そうか、スンミ達は中高の合同イベントで学校に行っていたか。
「何をして遊ぶ?」
「「おかあさんごっこ!」」
双子がよく遊んでいる、おかあさんごっこというのは、日常の両親の真似事。
「スアがおかあさんやるね。お兄ちゃんはおとうさん。」
そう決まると同時に、スングは絵本を開くと目を見開いて睨んでいた。
「スングは誰をやるんだ?」
「スンリおにいちゃん。」
「おにいちゃんそんな風か?」
「「うん」」
そう言えば最近のオレはあんな感じかも知れない。
ソラと喧嘩してからこの数日、授業が終わるとソラの法学部の棟に行かないで帰宅していた。
このおかあさんごっこと同じで、子どもの目は素直で見たままを表現する事が出来る。
「おにいちゃん、怖い顔をしていたんだな。」
「アッパと同じだね。アッパもお仕事大変だから怖い顔で本読んでる。」
「アッパはお仕事大変だからな。」
親父はオレとは違う意味で怖い顔をしているとは、まだ幼い双子には判らないだろう。
一度見れば記憶してしまう親父は、本は読まないで見ている。
集中している時は、誰も家族は親父に声を掛けない。
ただ一人そんな親父に声を掛ける事が出来るのは、お袋ただ一人だけだ。
お袋は親父に言い返した事は一度もないな。
でも前に一度だけ親父に強い口調で言った事があると聞いた。
たしか・・・・・・結婚する前に単位を落とした時に一度だけ大喧嘩をしたと言っていた。
大喧嘩をして家を飛び出した時、一度は友人に家に帰るように言われて近くまで戻って来ても家に帰らなかった。
自分の進む路を見つけるまではと、また家から遠ざかった。
お袋も強情だが、すぐに連れ戻しに行かなかった親父も頑固だが、それでもあのプライドの高い親父が誰にも言わないでお袋を迎えに行ったと聞いた。。
『オレが寂しいから帰って来てくれないか』と・・・・・
その事を聞いた時、親父は笑っていた。
たまには男が折れないといけないかもしれない。
そんな事を考えていたら、スアが小さな手でオレの顔を挟んで小さな唇を付けて来た。
それを偶然にリビングとの出入り口にいたハニが見かけて叫んだ。
「スンリ!兄妹で何をしているのよ!」
あまりの大きな声で、スアはハニが怒ったと思ったのか泣き出した。
「え・・・・・・おかあさんごっこ?」
「スアとスングの話だと、お袋と親父の日常のベタベタラブラブな事を教えてくれたよ。」
「なっ!スアとスング!」
いけない事をしたとは思っていない双子は、母に散々怒られてもなぜ怒られているのかは気が付いていなかった。
幼い二人にしたら、男の子と女の子という事は判っていても、父と母の二人並んでいる様子が、自分たちと同じと思っていたのだろう。
親父は、お袋のああいったいつまで経ってもなんにでも過剰反応する様子が、好きなのだろう。
男の理想が親父なら、オレもいつまでも意地を張っていないで明日にでも謝るか。
でも、オレはソラが何を言っても講義旅行に行くのだけどな。
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