スンリのイタズラなKiss 58
久しぶりにソラに会えると思うと、寝不足で毎日足を引きずるようにして家を出て学校に行っていたのが嘘のように身体が軽く感じた。
「スンリ出かけるの?」
「ああ・・・・・たまには息抜きに行って来る。」
「ソラちゃんと会うの?」
お袋も最近はソラに対する態度も少し変わって来た。
「たまには家に連れて来たら?」
「ソラが明日司法試験なんだ。結果が出たら家に呼ぶよ。」
一応、お袋はオレに気軽に誘うように言ったのだろうが、もう昔の事を気にしていないのだろうか。
「ソラのお母さんと昔何かあったの?」
オレが目をそらさずに聞いた事で、お袋はその視線を外そうとして、持っていた親父のマグカップを落とした。
床一面に散らばったカップの破片に淹れたばかりの熱いコーヒー。
スンジョが、その音を聞いて書斎から飛び出してきた。
「ハニ!大丈夫か?・・・なんだ、スンリがいたのか・・・・」
ハニは泣いたのか、鼻をすすりながらスンジョには笑顔を見せようと、さりげなく目頭を押さえてから顔を上げた。
「ごめんねスンジョ君、カップ割っちゃった・・・・・コーヒーもダメになったから淹れ直すね。」
割れたカップを拾っているハニの手をスンジョはサッと取った。
「オレが拾うからいいよ。布巾と割れたカップを入れる物を持って来て。」
「うん。」
親父はお袋の事をこんなに優しく接している。
結婚して二十年以上経っているのに、いまだに新婚をちょっと過ぎた姉夫婦に負けない程にお互い愛し合っている。
その両親がひた隠している過去を知りたいと思っても、親父は何も言いたがらないし、お袋はソラの事を最近は時々オレの嫁候補にしているとスンミから聞いたが、ソラの母親の事を聞くと、一瞬にして顔が変わる。
「オンマに何か言ったのか?」
スンジョは割れたカップの破片を拾い集めながら、ハニの後姿を見ていたスンリに聞いた。
「別に・・・・何も。」
そんな事を言っても、スンジョにはお見通しだと言う事をスンリは知っている。
「人には言いたくない過去がある事をお前も知らないといけないぞ。」
それは、ソラの母親との事をこれ以上聞いてはいけないと言われているのだと判っている。
玄関のドアを閉めて振り返って両親を見る。
何か言って泣いている母の肩を、父は労わるように抱いている。
人には言いたくない過去がある・・・・・・・・過去があるから親父もお袋もお互いを守っているんだろうな。
何があったかは知らないけど、口に出したくないと言うのは親父とお袋をお互い必要にしている証拠なのだろうな。
出かけに起きた事を考えながら、ソラと待ち合わせをしている場所に行くと、遠くからオレの姿を見つけたソラが手を大きく振りながら走って来た。
「スンリ、お待たせー。」
ソラのよく通る大きな声が久しぶりに聞ける事が出来て、オレは長い間離れ離れになっていた家族と再会出来たような気持がして来た。
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