スンリのイタズラなKiss 63
スンリはソラと待ち合わせをするために家を出た。
手には二枚の名刺を持っている。
一枚は済州島のホテルの名刺に、もう一枚は漢江にあるカフェの支配人の名刺。
他の名刺と違って一枚だけその漢江の名刺は皺になっていた事にスンリは不思議に思った。
何故だろう、親父は几帳面な所もあり、お袋とは違って雑ではない。
まるでこの名刺は握りつぶしたようにも見える。
家を出る少し前に、ソラと待ち合わせの場所を決めた。
その場所がこの名刺にある漢江のカフェ前。
約束の時間までにはまだあるし、当日予約をしようとスンリはひとりでカフェに向かった。
まだオープン前なのか、人気を感じる事がない。
おかしいな・・・事前に電話した時は留守電に切り替わったのに。
親父がこんなカフェに来るわけないか・・・・・・
お袋にも気の利いた事も言えないし、子供を置いて出かける事もした事のない二人だから。
必要のない物を親父は何故持っていたのだろうか。
「あの・・・・・・」
スンリは、従業員通用口のドアの鍵を開けている、五十代後半くらいの男性に気が付いた。
「はい、なんでしょうか?」
振り向いたその男性はスンリの顔を見てビックリした表情をした。
「どうかしましたか?」
「どこかでお会いしたような気がしたものですから。」
「どこかで・・・・ですか?まぁ・・普通の顔ですからね。あの・・・・・席を予約しようと思って来たのですが、支配人のイ・テガンさん・・・・」
「イ・テガンは私ですが、支配人だったのは随分と昔で、今はオーナーです。」
スンリは持っていた名刺をその男性に見せた。
「随分と古い名刺ですね。これは30年近く前の物ですよ・・・・・これが今の名刺です。」
漢江の夜景が見える席を予約すると、スンリは二枚の名刺をポケットの中に入れた。
親父は30年前の名刺をどうして大切に持っていたんだろうか。
必要のない物はすぐに処分してしまう親父にしては珍しい。
何か秘密があるのだろうか。
時計を見ると、もうすぐソラが来る時間だ。
スンリはソラが来るだろうと思う方に視線を向けた。
遠くからスンリの姿を見つけたソラが、手を高く上に上げて振っていた。
「スンリー」
駆け寄ってスンリに飛びついて首に腕を回した。
「合格したよ。」
「よかったな、おめでとう。このカフェ・・・予約したから。」
「何かレトロな感じね。」
スンリの腕にしがみつくようにして、テラスになっているカフェをソラは見上げた。
コツンコツンと靴の音をさせてカフェに上がって行くと、予約した時にいたオーナーが二人の姿を見て驚いた顔をした。
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