スンリのイタズラなKiss 64
「こんばんわ・・・・」
明るいソラの声は、澄んだ空気と同じように澄んでいた。
「いらっしゃいませ、席の方はご希望の場所に用意しました。」
オーナーは一応営業のための笑いを浮かべていたが、目は何か不思議そうに二人を見ていた。
「こちらです。」
案内された席は、真っ暗な漢江の水面に反射する車のライトがキラキラと宝石の様に揺らめく光景が何とも言えない程に美しかった。
「うわぁ、奇麗!」
椅子に腰かけながら漢江を眺めるソラの顔を、スンリはチラッと見た。
ソラの顔は川面の煌きよりも輝き、スンリはその横顔に見とれていた。
「どうかしたの?」
「あっ・・・いや・・・・・何にする?」
「ふふ・・・・・私の顔に見とれていたんでしょう?」
ソラに今の自分の事がばれていたのかと思うとドキッとした。
「まぁな、間抜けな顔をしているなと思って。」
机の下でソラの足は思いっきりスンリのすねを蹴った。
「って!!!」
「間抜けで悪かったわね。」
こんな風に言ってもソラはスンリの自分への愛情表現だと判っている。
決して自分に優しい言葉や甘いセリフを言ってくれなくても、嘘を言ったり心を誤魔化したりしないスンリだからソラは好きだった。
「合格お祝いって・・・・・このカフェ?」
「て・・・言うわけじゃないけど・・・・・・ソラが言っていただろ?一泊旅行。」
「うん・・・・でもいいよ。スンリと泊まりで旅行に行ったのがパパにばれたら怖いし・・・・・・ママもきっとダメだと言うから。」
「親父には気が付かれた。」
「嘘・・・・・・じゃあ、無理だね。うちのパパはスンリのパパの先輩だしきっと話しちゃうよね。」
「言わないさ。おばあちゃんやスンリには内緒にしろって言ったくらいだから。オレが責任を取るから、秘密を作れよ。」
スンリの意外な言葉にソラは驚いた。
自分と違って、親を困らせたりしないスンリが『秘密を作れよ』と言った事にソラは何かを期待した。
「オレさ・・・・・医学部はまだあと二年は行かないといけないし、その後も研修として忙しくて独り立ちをしたくてもまだ親の援助がいると思う。ソラはオレとの事をこれから先どうするかは考えた事があるか?」
いつになく真面目な顔で話し出したから、もしかしたらスンリからの別れ話と思った。
胸がキュッと苦しくなったと思ったら、目から知らない間に涙が流れた。
「ゴメン・・・・ソラを泣かせるつもりはないけど・・・涙を拭けよ。」
スンリはポケットから綺麗にアイロンがかけられたハンカチを取り出してソラに手渡した。
「いいよ・・・お別れ旅行で・・・グスッ・・・勉強は大変だものね・・・・スンリと・・・・・グスッ・・ずっと一緒にいたいけど・・・スンリの為なら・・・・・」
「おい・・・何か勘違いしてないか?」
「えっ?」
「別れ話じゃないんだけどな・・・・・・・・」
「じゃあ、何なの?」
「なんていうのか・・・・・・・・」
暗がりで判らないが、スンリが照れたように落ち着かず、ゴソゴソと座り直した。
「その・・・・オレが、大学を出たら・・・・・・・結婚しないか?」
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