スンリのイタズラなKiss 65
ソラは突然のスンリのプロポーズに、どう応えたらいいのか判らなかった。
好きで好きでずっとスンリと一緒にいられたらどんなにいい事か。
「結婚してくれるよな?一度はくだらない事でソラと別れたけど、ソラが待っていてくれると思うと、勉強も捗る気がする。あの天才ペク・スンジョの息子で、姉は産科医のペク・スンハ、おじはハンダイの社長。この事がどれだけオレのプレッシャーか・・・・・・・でも、ソラがオレを見ていてくれるなら、そのプレッシャーに耐えられると思う。親父やスンハにおじさんの事ばかりじゃない、妹のスンミのバレリーナとしての活躍に、父以来の天才だと言われている弟のスンスク、上からも下からもはさまれたオレは、平気な顔をしているけど結構負担なんだ。」
無言で俯いているソラの顔を見る事が出来なくて、スンリは断られると思い込んだ。
「グスッ・・グスッ・・・ゥゥゥウウウウ・・・グスッ・・・ズズズ・・・・・」
「ソラ?」
スンリがテーブルの上にあるソラの手をそっと触れると顔を上げた。
その顔は、今まで見た事も無い程に沢山涙を流していた。
涙だけならいいが・・・・・・
「ブッ!!」
スンリはソラのその顔を見て、思わず吹き出してしまった。
「ひっでぇ顔!」
「笑う事ないじゃないの!だって・・・・だって・・・・」
周囲の人たちもソラとスンリの様子に、いつ拍手をしようかと息を潜めて待っていた。
立ち上がったスンリは前かがみになって、ソラの顔をハンカチで拭こうとした時に、いきなり顔に衝撃を感じた。
「バシッ!!」
拍手をしようとしていた人たちは、その手をどうしたらいいかという顔をした。
「何すんだよ!」
「普通は、プロポーズをする時はサプライズがないとダメでしょ!ケーキの中に指輪を潜めたり、花束の中に一輪だけ指輪が止めてあったり、風船の中に指輪が隠してあったり、シャンパングラスの中に指輪があったり・・・・・・スンリは指輪もなしに、ただ漢江の一番見晴らしのいい席でセリフを言っただけじゃない。」
「それがなんだよ。オレはまだ学生だし、親の脛をかじるのは好きではないんだよ。親にも誰にも言った事のない自分の思いをソラにだけ話したのに、頬っぺたを叩くのか?この暴力女。」
「女の子はね、ダイヤの指輪を送ってくれるのを待っているのよ。この、鈍感男!」
「鈍感男だって?ソラの司法試験合格のお祝いに、旅行の計画を立てたのに、鈍感男だって?」
「うん、鈍感男。」
精一杯優しくカッコよく演出したつもりのスンリには、ソラのこの態度に呆れて物が言えなかった。
「親父はお袋にプロポーズらしいプロポーズはしていないし、結婚してからも誕生日のプレゼントは・・・・・・・赤いバラの花を1本と崩れたバースディケーキに洋服を一度だけだぞ。結婚して約30年でだぞ。それなのにお袋は親父に文句も言わないどころか、ただ親父と一緒に過ごせればいいと言って。」
何も言わなくなってしおらしくなったソラが多少可哀想に思えたが、スンリは立ち上がってソラを置き去りにして会計をしに行った。
「会計をお願いします。」
スンリが予約をした時のオーナーが、一人席に置き去りにされているソラを心配そうに見ながらスンリに小さな声で話した。
「30年位前ですかね、お客様とお連れ様とよく似たカップルを見た事がありますよ。常連のお客様ではなかったのですが、なんだか役者さんの様に綺麗なカップルだったので、記憶に残っています。」
「多分・・・・・父かも知れません・・・・が、その相手は母ではないですね。母と結婚する前に付き合っていた女性(ひと)かもしれません。」
チラッとソラを見て、すぐに追いかけてくるだろうと、スンリはそのまま店を出て行った。
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