スンリのイタズラなKiss 80
「全部聞いて来たんだろ?」
「全部聞いた。」
お袋がビクリとしたら親父は握っていた手にギュッと力を入れた。
少し外した指でお袋の足をトントンと叩いて、『大丈夫だ』と言っているようだ。
「ここに帰る前に、ソラの両親に話して来た。ソラと結婚するためには知らないといけない事だから。お袋・・・・・・・・」
「な・・・なに?」
一応平気な顔をして、スンリの話を聞こうと笑顔を作っているハニがあまりにも儚く見えた。
「ソラのお母さんが言っていた。」
ゴクリと唾を呑む音が、部屋の中で意外と大きく聞こえた。
ハニは恥かしそうに両手で口元を覆った。
親父はこんな仕草のお袋が好きだと思う。
いつまで経っても、高校生みたいな仕草をするお袋は、オレが息子じゃなかったら本気で親父から奪い取りたくなる。
「もう過去の事。ペク・スンジョとオ・ハニに7人の子供がいるのに、その中に入る隙などないし、自分は夫を頼りにしているから、あの時の事はただの思い出。オ・ハニとは本当の親戚になれる事が嬉しい。」
「ヘラが・・・ソラのお母さんがそう言ったの?」
「そうだよ。それに親父と最初に会った時から、お袋の事が好きだった事には気が付いていた。一度も人に負けた事がなかったから、たとえ金銭絡みでも親父を自分の方に向かせたかったって。お袋はもっと自信を持てよ。天下のペク・スンジョが自分の妻以外に目もくれない事は、子供のオレ達だって気が付いているんだ。オレがソラを好きになったのは、お袋に似ているところがあるからなんだ。」
「ス・・・・スンリ・・・・・・ありがとう。」
鼻の頭を真っ赤にしているお袋がソラと重なり、30年も親父に愛されている事に自信を持てないお袋を見て、オレは絶対にソラにそんな思いをさせないと心に誓った。
オレは親父の気持ちも分かるし、お袋の気持ちも兄妹の中で一番知っている事が、なんだか嬉しかった。
_____2年後
オレは大学を無事に卒業できる見込みが決まった時に、祖母であるグミにオリエントコーポレーションの後継者であるソラと結婚する事を話した。
おばあちゃんは複雑な顔をしていたが、これも運命だと言って意外と何も言わなかった。
オレ達兄妹は一人ずつこの家を出て行くが、それも仕方のない事かもしれない。
どうやら弟のスンスクも想い人がいるようで、毎日早朝からシャワーを浴びて、オレの化粧品を使っている。
妹のスンミも『ナイショ』と言っているが、きっと誰か好きな男性(ひと)がいるのか、ますます綺麗になっている。
スンギ・・・・まだ中学生で子供だが、お袋に似た顔で童顔だからなのか、意外と女の子に人気があるらしい。
双子のスングとスアはまだ小学生。
この二人の前では婚約者のソラとあまりベタベタしていると、からかわれるから自分の部屋でソラと仲良くさせてもらっている。
双子たちとソラは、オレ達が大学に入ってからの付き合いだから、実の兄弟のように仲がいいのがたまに癪に障る。
ペク・スンジョとオ・ハニ・・・・オレは両親のように、いつまでも結婚したらソラを守って行きたい。
だけど、子供は7人もいらないな。
「ねえ・・・スンリ、この家を出たらお母さんは寂しがらない?」
「平気さ、弟がこの家に花嫁を迎えるかもしれないから。」
「だって、スンスクはまだ高校三年生でしょ?」
「ペク家は早婚の家系だからな。」
オレは知っている。
スンスクの想いが何なのか。
ソラに手伝ってもらいながら、新居に運ぶ荷物をまとめると、判っているが胸の奥から熱いものが込み上げてくる。
ソラの左手に光る婚約指輪は、お袋がオレの花嫁にと用意した指輪だ。
高価じゃないが、お袋が初めて迎える花嫁を思って選んだ指輪。
ありがとうお袋。
オレの初恋の女性(ひと)
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