明日はまだ何もない明日(スンミ) 1
昼間の出来事がそのまま続いて、ペク家の夕食の時間は重い空気を漂わせていた。
いつもは賑やかな食卓も、今日はそこにいる人たちは無言でただ食べるためだけに箸を動かしていた。
大家族のペク家でも、出来る限り家族が揃って食事をする。
それが決まりごとの様にいつも空いている席はなかったが、今日は椅子が五脚空いていた。
「おばあちゃん・・・・スンミお姉さんは大丈夫かなぁ・・・・・・」
「スア、スンミお姉さんも大変だけど、ミラ・・・・ミラ姉さんの赤ちゃんが危なかったんだぞ。」
スンギは高校生になっているからミラがどんな状況なのか、スンミがどうしてバレエ教室の先生の奥さんに頬をぶたれたのかを知っていた。
まだ小学生のスアとスングは、大人の事情を知らされていないから、この重い空気にただ静かにしているだけだった。
「スンギの言う通りだけど、スアとスングは気にしなくてもいいわよ。ほら、ご飯を食べてね。」
グミは書斎の方を気にしながらスンギとスングとスアの食事の世話をしていた。
「ゴメンなさい・・・・ゴメンなさい・・・・・・」
「どうして・・・どうしてバレエ教室の先生と・・・・・」
ただ泣いて謝るだけのスンミと、スンミがした事にショックを受けて泣いているハニ。
スンジョは椅子に深く腰掛けて腕組みをし、何かを考えながら天井を見上げていた。
「いつから付き合っていたんだ?」
「う・・・う・・・・・・」
「泣いていないで聞かれた事に応えなさい!」
涙でグシャグシャになったスンミの顔を、ハニはハンカチで優しく拭き、白くて今にも折れそうなほどに細い指に自分の指を絡ませた。
「高校2年の秋から・・・・・・・」
「3年も隠れて付き合っていたのか?」
スンジョの冷たくて悲しい声にスンミはまた声を挙げて泣き出した。
「高校2年の秋って・・・・最後の発表会の後じゃないの・・・・・・・」
「ゴメンなさい・・・・・・・先生の事がずっと好きだった・・・・・」
そう、あの時の発表会が最後で、他の生徒たちはバレエを辞めて、受験勉強を本格的に始めた。
私はもともと身体が弱くて受験勉強は無理だからと、ユファ女子大学に推薦枠で行く事になっていた。
スンハお姉さんやスンリお兄さんやスンスクと同じパランではなく、ユファ女子大は富裕層の娘が通う大学として有名で、親の収入と地位だけで行く事が出来た。
私は恵まれた家庭環境で育ち、何の苦労もしなくても何でも自由に出来る事に物足りなさも感じていた。
「スンミはこのままバレエを続けてくれるのかな?」
「続けたいけど、ソロパートで私と同等の人がいないから・・・・・どうしようかなって、思っています。」
「指導者にならないか?」
「先生・・・・・・」
先生と同じ指導者・・・・・・それもいいかもしれない。
同年齢の人たちが辞めて、ソロパートを踊れる人が後にいないし、私一人では一場が限界。
もう少し体力があったら、一幕踊れたのに・・・・・
「私、指導者になります。」
そう、そうすれば先生とずっと一緒にいる事が出来る。
スンミは3歳から始めたバレエを、今度は躍る側から指導者になる事を決めた。
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