明日はまだ何もない明日(スンミ) 4
誰もいない家の中に好きな人を初めて招き入れる事にスンミはドキドキした。
「先生・・・・座ってください・・・・・」
綺麗に掃除のされているペク家。
忙しい祖母と母が普段は掃除をしているが、時々近くに住んでいるスンミの叔父ウンジョの妻のミアが代わりに掃除をする時もあった。
「先生は、何を飲みますか?」
「気にしなくてもいいよ。」
広いリビングの壁に掛けられたペク家の家族写真。
にこやかに笑う家族の中で、一人だけ笑顔になっていない人物がいた。
「相変らずだな・・・・・」
「え?何がですか?」
「君のお父さん・・・・」
スンミは淹れたてのコーヒーをソファーの前のテーブルに置いた。
「父を知っているのですか?」
「知っているよ・・・・パラン高校の後輩だから。でもスンミのお父さんは私の事は知らないと思うよ。大学は海外に行っていたから。」
スンミは家族写真の前に立っている先生の横に並んだ。
「高校生の父はどんな人でしたか?」
「そうだな・・・・・・これは君のお兄さんだよね・・・・・よく似ているよ。だけどちょっと違うかな?いつも何か冷めた目で見ていたから・・・・・・今は笑顔はなくても幸せそうだ。」
家で見る父は、いつも自分と母を心配そうに見ている。
「兄は顔は父とそっくりでも、性格は母なんです。」
「君のお母さんも有名だったよ。休暇でこっちに帰って来た時に、高校に顔を出した事があった・・・・・・ククク・・・あれは君のご両親が高3の時だったかな?パラン一の天才のペク・スンジョに、7クラスのオ・ハニがラブレターを出して、添削して返されたって・・・・・・」
その話は何度も母から聞いた事があった。
あの頃のアッパは本当に捻くれ者で・・・・・・・でもそこが好きだったの
今でも女子高生のような目で父を見ている母を、スンミは大好きだった。
「スンミは好きな人はいるのか?」
「え?」
大好きな先生に、好きな人はいるのかと聞かれるとは思ってもいなかった。
「君はお母さんの高校生の時とよく似ているよ。真っ直ぐな心をそのまま映し出している瞳で。それに最近綺麗になったから好きな人でも出来たのかと思ってね・・・・」
先生に見つめられると、目が合わせられない・・・・・・
私の気持ちを知られたら、もうレッスンには行けない。
「先生、写真を持って来てくれているんですよね?カナダ公演のみんなの様子を見たい・・・・・・」
スンミは自分の心を誤魔化すように、先生の持って来た袋の中のアルバムを取り出した。
カナダの劇場はとても広く音の響きもよく、踊っている友達が華やいで見える。
どの写真も、一緒にレッスンをしていた友達が、堂々とステージ上で踊っていた。
行きたかった・・・・・健康な人だったら、きっと先生にリフトされているのは自分だったのに。
悔しさより羨ましさがドンドンと大きくなっていた。
「ジヨン、レッスンの時よりも綺麗に指先が伸びてますね・・・・・・先生とのリフトの場面・・・・・うまく行ったのですか?」
「何とかね・・・・でも、私は君とのリフトが一番やりやすいよ。」
「えっ?」
いつの間にかソファーに座っている自分と先生の距離が近くなっていた事にスンミは気が付かなかった。
レッスンの時に顔が近くてもドキドキしなかったが、自分の家のリビングで見る先生の目がいつもよりも輝いていた。
徐々に近づく先生とスンミの顔。
スンミはそっと目を閉じると、先生の温かな唇がスンミの唇に触れた。
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