明日はまだ何もない明日(スンミ) 8
どこでどう伝わって、バレエ教室の先生の奥さんが家まで怒鳴り込んで来た。
ミラに不安を与えてはいけないのに、私と間違われて叩かれてしまった。
誰にも言わないでナイショに付き合っていても、いつかは知られてしまう事は分かっていた。
『まさか私の子供が』と、恩間はそう言ってずっと泣いている。
声を挙げて泣いている母を見て、スンミはどうしていいのか判らなかった。
正面を見れば父が怒っているのか、何を考えているのか判らない無表情の顔をしていた。
「アッパ・・・・・・・」
「で・・・・・・スンミは先生とこれからどうしたい?」
「スンジョ君・・・・・相手は奥さんも子供もいるの・・・・・年齢だって、私達よりも上よ。」
「判っているよ。相手の話も聞かないといけないけど、その場に一緒にいる事は今のスンミには耐えられないだろう。話し合いをするのにも、あの奥さんがとても冷静に話せるとは思えない。」
先生を諦めろって言うの?
アッパだって・・・・・知ってるよ、お兄さんから聞いたから・・・・ソラさんのお母さんと婚約していたのに、オンマと結婚を決めたって・・・・・・それは裏切りでしょ?
「アッパは好きな人を諦めろとは言わない。」
「え・・・・・・」
「素直に自分の気持ちを伝える勇気は、スンミにはとても大変だったと思う。」
意外な父の言葉にスンミは勿論、ハニも驚いて顔を上げた。
「ハニを諦めようと思って自分の心に蓋をした。折角ハニが開けてくれた蓋を自分で閉じた。忘れる・・・・・元に戻るだけだ。自分にそう言い聞かせても、相手が運命の相手ならそれを聞く事も出来ない。苦しくて苦しくて・・・自分から手離したハニを想うと、胸がつぶれそうで。本当にそれでいいのか、いやそれではいけないと、自問自答したが答は出なかった。人を好きになるのに先だとか後だとか、年が上だとか下だとかそんな事は関係ない。もしスンミが本当にそのバレエの先生を諦めきれないのなら、アッパに任せなさい。」
スンジョにしても、この問題はそうは簡単に解決するとは思わない。
スンミの身体の事を思えば、あまり精神的に負担を掛ける事は良くない。
「ハニ、バレエの先生ってパラン高校の二年先輩だよな。」
「そうだって聞いたよ。」
「ギテ先輩と同じ学年か・・・・・あまりギテ先輩には頼みたくないが、先輩に頼むか。」
「え・え・え・いいの?だってギテ先輩は・・・・」
「バーカ、何年前の事だよ。いつまでもあの先輩はハニの事を思っていないさ。」
何?何の事?
オンマがアッパ以外の人と付き合っていたの?
「ハハ・・・スンミが不思議そうな顔をしているぞ。」
「ギテ先輩って?」
言いにくそうにしている母と、ニヤッと笑っている父の顔。
子供の目から見ても、二人の間に別の人が絡んでいたとは思えない。
ソラの母親ヘラとは会社関係での事。
何人もの人と付き合うほど、母は気が多い方ではない。
「ギテ先輩というのは、昔オンマの事を好きだった人だよ。今は結婚もしているしお互いテニス部の先輩後輩というのもあるから、時々は話す事もあるんだ。今回はもしかしたらそのバレエの先生の事を知っているかもしれないから頼んで見ようかと思ったんだ。先輩は弁護士だから相談に乗ってもらえる。」
スンジョは人に頼む事が好きではない。
医療関係以外は専門分野ではないが、知識は弁護士ほどではないがそれなりにある。
「結局スンジョ君はスンミに甘いんだから。普通だったら殴ってでも縛ってでも妻子持ちとは付き合うなと言うでしょ?」
「オレは普通ではないし、スンミはオレとハニの娘だから、そう簡単には好きな人を諦めたりしない。」
「アッパ・・・・・・アッパ大好き・・・大好きだよ。」
スンジョに抱き付いてなくスンミの顔に笑顔が浮かんだ。
「アッパだけを好きでいて欲しいけど、スンミはアッパ以外の人を好きになったからな。」
0コメント