明日はまだ何もない明日(スンミ) 9
アッパは私を叱らなかった。
叱って先生と付き合うのを止めろと言わなかった。
____ コンコン
「はい」
「オンマよ・・」
スンミの薬を持って入って来た泣き腫らした目のハニを見てスンミは胸が苦しくなった。
「薬は飲まないとね。本当にこの子ったら・・・・下がり始めた熱がまた上がって来ちゃったじゃないの。」
どうして私はこうなんだろう。
ちょっとした事で直ぐに熱を出してしまう。
「ねえ、オンマ。」
「何?」
「アッパ、どうして叱らなかったの?オンマだって、悪い子ねどうして奥さんがいる人を!って言わなかったの?」
ハニは自分とそっくりな顔の娘を見ると、辛い恋をしている事を可哀想に思えた。
「人を好きになると言う事は、難しい事なの。一人の人を好きになると、他の誰かが悲しい思いをするの。スンミの報われない恋をするその気持ちが、オンマには判るの。」
遠い昔を思い出す母の顔。
父とはいつも一緒にいて、自分も結婚したらこんな風になりたいと思っていた。
「高1の時に一目ぼれしてずっとアッパに片想いで・・・高3の時にラブレターを書いたの。そんな事にどれだけ勇気が行ったのか・・・このまま卒業をしてしまうのじゃなくて、告白してもしかしたら・・・・って、針の穴もない希望に掛けたの。だってアッパは氷の王子・血も通っていない冷徹男と言われていたからね。」
今は信じられない程に優しいアッパ。
スンミお姉さんが、アッパは病院と家だと全く他人のように別人だと言っていた。
「高3の時に同居したでしょ?同じ家に住むのだから、そのうちに優しくしてくれるようになるかな~なんて思ったけど、一緒に住む事に慣れれば慣れるほど意地悪で冷たくなったの。片想いが辛くて辛くて・・・結婚したいって親の前で言うまで、何度泣いたことか!いつから好きだったのかなんて、今でも判らないわ。意地悪したりからかってばかりで!」
何度飲んでもおいしくない薬を飲むと、ハニはスンミを横にさせた。
「スンスクから連絡があった?」
「あったわよ。ミラと赤ちゃんも大丈夫だって。」
「よかった・・・私の所為でミラに怖い思いをさせちゃった。命がけで赤ちゃんを産むのにね。」
「お母さんって凄いよねぇ~」
まるで他人事のように言うハニを、スンミは本当にこの母の子供として産まれて良かったと思う。
「オンマも私を産む時大変だったんだよね。自宅で予定日よりひと月早く産まれちゃったから。」
「それはオンマが悪いの。早くにアッパに言えばよかったのに、調子が悪いのを我慢しすぎて・・・・そのせいで病気がちに産んでゴメンね。」
幼稚園から大学二年になって今までまともに学校に行けなかった。
その度に父の勤めている病院に運び入れ、徹夜続きで疲れているのに病院にいる間に具合が悪くなっても、仕事中でも様子が見られるからと入院させていた。
「私もオンマやスンハお姉さんとミラの様にお母さんになれるかな?」
「なれるよ。なんてったって天才ペク・スンジョが我が家にいるのだから・・・・・ね?さぁもう寝ないと。」
スンミの部屋を出て行く母の背中に向かって声を掛けた。
「アッパがオンマの事好きになったの・・・・・たぶん最初に会った時からだと思う。」
そうアッパが前に言っていた。
絶対オンマに言うなよと。
ありがとう~と言いながら、全く信じている様子を見せないで、ハニはスンミの部屋のドアを閉めた。
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