明日はまだ何もない明日(スンミ) 10
何事にも動じないオレが、昼間の出来事で寝付けられない。
ハニとよく似ている娘だから一番可愛いし、結婚するまでハニを何度も泣かせたから、スンミの泣く顔を見ると平常心でいられない。
「スンジョ君、眠れないの?」
「お前も眠れないみたいだな。」
「どうしてあげたらいいんだろうスンミの事。辛い恋は私が一番判ってあげられると思っていたのに・・・・・何も出来ない。」
「そうだな・・・あの小さかったスンミが恋をする年頃になったと思うと・・・・信じられないな。」
20年前の夜中、自宅で産まれたスンミを取り上げた夜は、昨日の事のように覚えている。
スンハとスンリも幼いながら、初めて目の当たりにする光景なのに、苦しんでいる母を励まし産まれてくる自分たちの兄妹を見て、驚きながらも一生懸命だった。
今はもういない父。
スンミが産まれた年で、翌年に亡くなる前に言ったあの言葉。
「自分の命をスンミにあげられるのなら。」
産まれた時は心拍が弱くて、あの時家族は勿論、ハニにもその事は言わなかったが、育たないかもしれなかった。
その後すぐにハニはスンスクを妊娠したが、自分の身体よりもお腹の子よりも弱々しくミルクもあまり飲まないスンミを心配した。
身体は弱いが生命力はある子だ。
何度も危険な状況になっても、医師の治療だけじゃなく自力で生きようと言う気持ちで回復した。
今日のあの事は、多分スンミにとって今までで一番危険な状況になるかもしれない。
「スンジョくぅ~ん」
甘えるようにすり寄ってくるハニは、いつまで経っても娘の様に若く感じる。
スンジョはそんなハニの唇にキスをした。
「スンハと同じ事をしないようにしないとな。」
「スンハと同じ事?」
「判らないか?」
「判らない・・・・・」
スンジョの呆れたような大きなため息が何を言いたいのかハニはようやく気が付いた。
「だ・・・・だ・・・大丈夫よ。相手は大人だから。」
「だといいが、スンミの心臓は子供を産むには耐えられないからな・・・・それを言うのもスンミにはショックだろう。ギテ先輩の方はオレが話すから、ハニはその事を相手に言ってくれよ・・・・」
「や・・・やだ・・・・スンジョ君みたいに平気な顔して言えないよ、恥ずかしくて。」
「何が恥ずかしいだよ。7人も子供を産んだ母親だろ?それに今だって恥ずかしい事をしたいんだろ?」
「もぅ!・・・もぅ・・・もう・・・・」
そんなスンミの身体の心配をしている両親と違う思いのスンミ自身も眠れなかった。
「先生?今一人ですか?」
「ああ・・・今日はゴメンな。君の家に押しかけて・・・」
「会いたい・・・先生に会いたい・・・・」
「先生も会いたいよ。」
先生の声が最初に聞いた声よりも小さくなって来た。
「ゴメン、妻がこっちに来たから明日・・・明日いつもの場所で会おう。」
「はい・・・・3限目から授業です。」
そう私たちが会う場所は誰にも教えないし、誰にも気が付かれないあの場所。
「先生、どんな事があっても好きです。大好きです・・・・」
「ああ・・・先生もだよ。」
先生はあの日以来一度も私が好きだと言っても、好きだと言ってくれなくなっていた。
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