明日はまだ何もない明日(スンミ) 14
「スンミ・・・止めよう。先生は責任が取れない。」
「いや・・・ハァ・・・」
「苦しいのか?」
「大丈夫・・・フゥ・・・」
肩で息を整えているスンハは、潤んだ目でサンを見つめていた。
「無理をしなくていいから、スンミのためだよ。辛いならそう言いなさい。」
スンミの手首に振れると、一曲踊った時よりも速く脈を打っている。
身体は焼け付くくらい熱く、このままスンミの願いを聞くわけにはいかない。
「キスだけなんて・・嫌・・・」
サンが開けたスンミの胸元に手が行った時、ガチャリと音がしてドアノブが動いた。
「スンミ!」
サンはそれがスンジョだとすぐに判った。
いくら年数が経っても、あの頃と変わらない整った顔は、冷たくて人の心を射抜くような目で、こちらを見ている。
急いでスンミは起き上がり身を整えて、いつもの凛としたスンミの表情に戻った。
だが、スンジョは二人が何をしていたのかと言う事よりも、スンミの様子が可笑しい事に気が付き、近づいて額に手を当てると来ていたコートを羽織らせた。
スンミの脇に置かれた洗面器に嘔吐物があることに緊急な事態だと思った。
「熱が下がっていないのに出かけて。オンマからさっき電話があって、お前の顔色が心配だからって大学まで見に行ったのに、お前はオンマの・・・・・・いやそれどころではないな。いつ吐いたんだ?」
「さっき・・・・先生がお水を持って来てくれたけど飲めなくて・・・・・先生が口移しで・・・・・飲ませてくれたの。そうしたら急に吐き気がして・・・・・・」
グイッとスンミの腕を引き上げて立たせるが、膝がガクガクとさせている。
「アッパ・・・・・先生といたい・・・・」
スンジョに掴まれた腕を振り解こうとするが、熱のあるスンミには父の力に勝てるはずがない。
「今の状況を放っておくと、重篤になる。アッパの言う事を聞きなさい。」
スンジョがスンミの腕を引いて歩かせようとするが、サンから離れようとしないスンミは精一杯の力でそれから逃れようとする。
上目づかいにスンジョを見上げる潤んだ目で熱の高さが判る。
スンミは顔がハニとそっくりなら、強情なところもハニとそっくりだ。
無理強いすれば意地になりかねない。
「スンミのお父さん。」
サンはスンミの腕を取りスンジョと一緒に行くように前に押し出した。
「申し訳ありません。スンミを病院に連れて行ってください。それと・・・・・・ここに入って来た時誤解をされたかもしれませんが、スンミの身体は真っ白なままです。」
サンがスンミを掴んでいた手を離すと、フラフラと父の胸に倒れ込んだ。
バカな子だ。
熱があって立っていられないのに、スンハと同じようにやれるはずがない。
意識を無くしているスンミを抱き上げると、それを見てサンがドアを開けた。
「また改めて連絡します。スンミは今日限りここでの指導は終わりにしてください。熱が下がらないので多分このまま入院となり長引くかもしれませんので。」
部屋の中に置いてある荷物を持って、スンジョは乗って来たエレベーターで降りて車を停めてあるパーキングに向かった。
「ハニ?スンミを見つけたよ・・・・・・今?車に乗せて病院に向かっている。」
<仕事になったの?それともスンミの具合が悪くなったの?>
「仕事じゃない。スンミが倒れたから、このまま病院に連れて行く。」
スンミが倒れたと聞いて、電話を通してハニが慌てているのがスンジョに伝わる。
スンミの体調が落ち着くまで何も言わない方がいいだろう。余計な事でハニに負担を掛けさせられない。
家事と仕事に加えて今は妊娠中のミラの世話もあるし、まだ幼いスングとスアに手が掛る。
<入院の準備をして、私も病院に行くね。ミラの付添をスンスクと交代する約束なの。お母さんにスンギと双子たちの事をお願いしてあるの。>
明るいハニの声を悲しい声にしたくない。
サンの思い、スンジョの思い、辛い恋で苦しんだハニを知っているから、可愛い娘にはそんな思いをさせたくないから、スンジョは二人をどうやって引き離したらいいかと考えていた。
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