明日はまだ何もない明日(スンミ) 15
静かに病室のドアを開けて、まるで隠し事を見つからないようにしている子供の様に病室の中を伺っている人がいた。
「お母さん、どうかしたのですか?」
「入ってもいい?」
ハニは静かに病室内に入ると、ベッドで眠っているミラの顔を覗きこみ、点滴液の残量を確認しスンスクの横の椅子に腰かけた。
「スンスク、もう少しミラの所にいてくれる?」
「いいですよ。どうかしたのですか?」
年子で小さい時から二人は仲が良かったから、どう言い出したらいいのかハニは迷っていたが、言わなければスンミの病室に行く事が出来ない。
「スンミがね、ずっと熱が下がらなかったでしょ?」
「はい、いつもよりも長いですよね。」
「外出先で倒れて・・・・・」
「倒れた?」
思った以上に大きな声だった。
その声も聞こえないくらいに、ミラはぐっすりと眠っていた。
「でね・・・お父さんが偶然その近くにいたから、そのまま病院に連れて来て・・・・入院になったの。で・・・今からスンミの病室に行って来たいの・・・・」
スンスクは心優しい子で、嫌だとかを言う子ではない事はハニは知っている。
知っているから、交代時間を遅らせてほしとも言いにくかった。
「ミラは僕の妻ですから、お母さんはスンミの所に行ってください。試験勉強もここで出来ますから。」
ニッコリと穏やかな笑みを浮かべて、開いているテキスト本を上げて見せた。
「ゴメンね・・・・点滴ももう終わりそうだから、看護師さんに伝えておくから、その間ラウンジでコーヒーでも飲んでいらっしゃい。」
「コーヒーを飲むほど疲れていません。ミラの寝顔を見ている方が、僕は疲れが取れます。」
スンスクの疲労もピークに来ている事も判っていたが、自分の娘であるスンミが一週間ずっと熱が続いている事と、家を出る時に具合が悪い事に気が付かなかった事に後悔をしていた。
スンミが入院するといつも決まっている病室のドアを開けると、ベッドサイドの椅子に目を瞑って腰かけているスンジョがいた。
「スンジョ君・・・・・」
「ああ・・・・ゴメン・・・入院用品はカバンから出さないでそのままに。」
「どうして?日帰りなの?」
「いや・・・・・・ナ先生に紹介してもらって、ソウルからは遠いが高原の静養所にスンミを入れようと思う。」
突然の事に、ハニは何と言っていいのか言葉が出なかった。
スンジョにしても、ギテから聞いた事をハニに話すのは躊躇ったが、自分の中だけに収めておくとまた何か余計な事をするだろうと思った。
「ハニは、バレエの先生の事はスンハが通って習う前は知っていたか?」
「知らないよ。だって、お母さんがスンハの為に探して来てくれたのだから。」
そうだよな。
スンハと出かけたと思ったら、勝手に決めて来たと事後報告をしたのだから。
「ユン・サンはパラン高校出身で、ギテ先輩と同級生だった。」
「へぇ~」
全く気にもしていないと言うより、そんな偶然があったんだと喜んでいるような顔をした。
「それなら安心だね。」
「安心なんかじゃない。ユン・サンは、スンハをパラン高校の時に好きだった人の身代わりにしているんだ。それが誰かは・・・・・ハニ、お前の事だ。」
言っていいかどうか迷ったが、ハニに言っておいた方がスンミを諦めさせるためには仕方がなかった。
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