明日はまだ何もない明日(スンミ) 17
母の話を聞いていたのか、両手で顔を覆って泣き出した。
「スンミ?」
「オンマ・・・・ゴメンなさい・・・ゴメンなさい・・・」
「どうして謝るの?謝らなくてもいいのに。スンミが好きになった人が、先生だっただけよ。」
今にも折れそうに細いスンミの手を、ハニはそっとどかして流れている涙を拭いた。
「アッパとの話を聞いていたでしょ?」
コクンと頷くスンミは、涙を止める事が出来ない。
「アッパを恨まないでね。弱り切っている身体は、精神も弱るの。いつまでも熱を出していたら、ドンドンと良くない方に考えも行くから、スンミの為に空気のいい所で治して元気にならなきゃ。この先の事は判らないけど、元気になってスンミもスンハみたいにお母さんにならなきゃ。」
そう励ます事しかハニには出来なかった。
母親になる事どころか、この先スンミが結婚できるのかもわからない状況。
「知ってるの・・・私がお母さんになる事が出来ないのは・・・・でも先生の事が好きだから行きたくない。」
「人を好きになるのには、どうしてそうなるのかなんて誰も判らないし、法則だってないの。でもね、少し距離を置くと違った面も見えてくるよ。スンミは先生の事が好きになったのは、アッパとは正反対のタイプだから。優しくてうまく踊れても踊れなくても『いいよ、いいよ、綺麗だよ』って大袈裟なくらいに褒めてくれるから。アッパを見れば、優しいどころか冷たくて意地悪で、ひねくれていてよくこんな人が結婚をして7人もの子供の父親になれたって・・・思わない?」
廊下の外では病室から聞こえてくる話を聞きながら、手を止めている人がいた。
ドアに手を掛けて少し中の様子を伺っている。
「随分、ひどい事を言っている人がいるのね。でも・・・そんなアッパを、オンマは好きなんでしょ?」
「そ~なの。冷たくて意地悪で何度泣かされたことか。いきなり結婚したいと言われて、それなら優しくなるかと思ったら相変らず意地悪で・・・・・・・・ハァ~、そんな所が好きなのよねぇ~好きな女の子を甘やかすだけが愛でもないの。冷たく突き放して、遠くで見守るのがアッパの愛なの。」
ガラッと戸が開いて、ハニとスンミはそちらを見た。
「いつ入ろうかと思ったが、外で聞いていても恥ずかしいから、ここらで止めようと思って入って来たけど、そんな風に思っていてくれてありがたいよ。」
ビジュアル的には全く正反対の二人だけど、この二人が一緒にいつもいるから、ペク家が幸せな家庭だと世間で見られているのだと、スンミは思った。
「オンマから聞いたと思うけど、手配は済んだから今から転院する準備だ。後はアッパとオンマに任せればいいから、スンミは静養所でしっかりと元気になって来るんだぞ。ミラの事もあるからあまり会いに行けないが、出来るだけアッパかオンマの手が空いている時には、会いに行くから。」
「元気になったら・・・・・また先生に会えるよね。」
「ああ・・会えるよ。向こうでスンミの考えもまとめて、冷静になったら見えないものも見えてくるから。」
ずっと手元に置いて、スンミの身体の心配をしたいが、スンジョはいずれは親はいなくなるのだから、今のこのタイミングでスンミを静養所に送る事を決めた。
沢山泣かせて結婚したハニへの罪滅ぼしでもあったが、顔がそっくりでもスンミは一人の人間だ。
ハニの身代わりとしてスンミと付き合っていたサンと、自分はそれほど変わらないと思っていた。
一番可愛い娘を手元から離してしまう事は辛いが、一向に元気になれない所に簡単には解決できない問題を抱えては、治るものも治らない。
荷物を纏めて着替えている娘スンミと、母ハニの会話を背中越しに聞きながら、スンジョは子供が手を離れる淋しさを感じた。
0コメント