明日はまだ何もない明日(スンミ) 20
妻の後ろに隠れる様にして部屋に入って来たユン・サンのその姿を見ると、スンミはこの男のどこが良くて好きになったのだろうかと思った。
隣に座っているハニは緊張しているのか、ゴクリと唾を飲んでいる音がした。
「阿婆擦れ娘はどこ?」
「なんて事を・・・・スンミは阿婆擦れではないわ。」
自分の娘の事をそう言われては、緊張をしているハニでも黙ってはいられないだろう。
「フン!人の夫に近づいて!あんな小娘にたぶらかされるなんて、本当に情けない夫ね。」
この妻は何て品がなくてバカな女なんだろう。
それ以上にこの夫は男として情けなさ過ぎだ。
言いたい事をまくし立てているこの女が言い終わるまで待っていたら、吐き気を抑えるどころかこの女の顔に向かって吐きそうだ。
・・・・・・とスンリなら言うのだろうな。
スンジョはカバンから数日前に買ったゴシップ雑誌を取り出した。
「何ですか?これは。」
やっとユン・サンが声を出したのと反対に、妻の方はギクッとした。
「こんな事をして、気が済むのですか?」
「事実でしょ?」
スンジョは自分がこの記事の事に付いて話そうとしたら、ハニの方が先に話し始めた。
「全部ではないけど、大部分は違っています。ユン先生はこの記事を読まれたのですか?」
サンは初めてその雑誌を見たが、記事のタイトルに驚きが隠せない様だった。
「お前・・・・どうしてこんな事を・・・・・」
「あんな小娘に気持ちが動くなんて、赦せないからよ。儚げで何も知らない純真そうな顔をして澄ましている顔が気に入らないの。」
「スンミはそんな女の子じゃない。本当に気持ちの綺麗な女の子だよ。」
ハニやスンジョが言わなくてもサンはスンミの事をよく知っている。
スンミはハニと顔が似ていれば、心の綺麗なところも似ているから。
「Bさんって・・・事務所のヘリの事だろ?本当にヘリに聞いたのか?それに、スンミと付き合い始めてからって・・・・子供の教育の為にとか言って、ずっと10年以上海外に行ったきりじゃないか。大学受験の為の一時帰国で今ここにいるんだろ?ある事ない事を雑誌記者に言うんじゃないよ。」
「生徒数だって減ったじゃないの。」
「それは一時的だ。みんな高2の春の公演を最後に大学受験の為に辞めただけだ。」
それが事実だ。」
スンミは推薦枠で進学をするから、時間にゆとりがあり指導をするために残った。
「妻が、こんないい加減な事を雑誌記者に言って、申し訳ありません。なんと謝っていいのか・・・・」
「弟の会社の名前を出したので損害賠償と、私の大学での立場もありますし医師としての信頼にも影響があるので名誉棄損・・・・・慰謝料は相当な額になると思います。バレエ教室が閉鎖・・・・になるのじゃないですかね。」
逆上してありもしない事を大袈裟に言ってしまった妻も、まさかこんなにあっさりと立場が変わるとは思ってもいなかった。
顔色が変わったのはその妻とサンだけではない。
ハニもスンジョの言った事を落ち着いて考えればお金で解決する方法が好きではないことは判っていたが、今は冷静にはなれなかった。
「記事を訂正とか事実を話して・・・・・なんて事をしたら更に大袈裟になります。雑誌が雑誌なので、いずれ真実は判ります。娘は精神面も強い子ではないので体力をつけるためにも静養所に行っています。」
「スンミからメールが来て知っています・・・・ぁあ返信はしていません。私も今回の事でスンミに悪い事をしたと思っていますから。」
「ユン・サンさん、聞いてもいいですか?娘とはどんな付き合いだったのですか?」
「ス・・・スンジョ君!」
これだけは聞きたくはないが聞かなければいけない。
まだ若いスンミが立ち直るか立ち直れないのか。
時間が掛ってもいいからスンジョもハニも元気なスンミの姿が見たいから。
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