明日はまだ何もない明日(スンミ) 25
長靴の底に貼り付くような粘土質な土を、スンミは気になって仕方がなかった。
土なんて触った事がないから、芋掘りなんてしたくないわ。
そんな風に思いながら、静養所の職員が掘り出す芋を畑に入り受け取る。
数個纏めて籠に入れてまた畑に戻る。
畑に出てから気になる視線。
初めて静養所の人たちと顔を合わせるわけでもないが、今朝挨拶をした時から何だかよそよそしさを感じていた。
いつも、普通に挨拶をしていたのに、今日はサッとスンミの挨拶を避けていた。
気にしない。
ここばかりじゃなく、学校にいる時もそうだった。
ハンダイ社長の姪で父親がパラン大医学部教授。
6人の子供たちは成績優秀で、ビジュアルも良くてそれが鼻につく。
慣れていたけど、その時とは視線が違う。
「こっちに来いよ。芋が焼けたら三等分に切って、まず最初に・・・・・?聞いてるのか?」
「あっ・・・ゴメンなさい。三等分に切るのね。」
スンミ他3人の患者が、切り分けた芋を職員や入院患者一人ずつ手渡して行く。
同じ数だけの芋を切って同じ数あるはずなのに、スンミの所だけ誰も並ばない。
それを見かねたヒョンジャが、順番を待っている人に声を掛けた。
「こっちにもあるからねぇ~」
聞こえないはずはないが、聞こえていない振りをしていた。
一人の人が一冊の雑誌をスンミに投げ付けた。
―――― バシッ!
「痛い・・・・」
「チョさん、物を投げたら危ないでしょう。」
ヒョンジャはスンミの肩に当たったその雑誌を拾い、その拍子を見ると顔色が変わった。
「人としてしてはいけない事をした人が切り分けた芋なんて食べたかないよ。ここの静養所にいる患者はみんなそう思っているよ。」
スンミはヒョンジャが持っている雑誌を取ってそれに目を通した。
違う・・・違う・・・そうじゃないのに・・・・
ポトンと雑誌の上に涙が落ちると、隣にいたヒョンジャがそれを取り上げた。
「気にするな。」
そう言うとその雑誌をヒョンジャは芋を焼いている焚火の所に投げ入れた。
「当事者の話じゃなくて、第三者の一方的な思い込みだけの記事を信用する事は馬鹿げている。スンミがそう言う人間かどうかは目を見れば分かるだろう?人を傷つけて平気な人は、目がスンミみたいに澄んでいない。三流の事実確認も取れていない記事の雑誌の売り上げだけで取り上げた物を信用するヤツは、それ以下の人間だ。ほらスンミ、みんながスンミが綺麗に切った芋を取らないのなら、オレが全部食べるから。」
ヒョンジャは、スンミが切り分けた芋を勢いよく食べるが、ホコホコの芋はヒョンジャの頑丈そうな喉でもスムーズには飲みこめるはずが無かった。
「ほい、お茶を飲みな。」
「ゴホッ!ゴホッ! ふみまへ・・・・・」
「全くこの研修医は、患者を患者として扱わないから困ったもんだ。スンミ悪かったね。みんなスンミを嫌っている分けでも疑っている分けでもないよ。裕福な家庭に産まれ育ち、先日来てくださったご両親を見て、絵に描いたような仲良し夫婦に嫉妬しているんだよ。私も芋を貰うね。」
一人の老婦人が、スンミの所から芋を持って行くと、さっきまで遠巻きに見ていた人たちもスンミの所から芋を持って行った。
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