明日はまだ何もない明日(スンミ) 26
冷たい水で焼き芋パーティで使った物を洗っていると涙が止まらなかった。
声を出して泣いたのはいつが最後だろう?
中学校に上がった時は、学校で意地悪を言われて悲しくても泣いたりしなかった。
身体が弱いから両親に叱られた事もない。
兄妹の中で年子の弟のスンスクと一番仲が良くて、一緒にいる事が多くていつもスンスクが守ってくれた。
「弟なのに・・・・・・」
ポトンと涙が流れてシンクに溜まっている水が、バシャンと顔にかかった。
「キャッ!!」
「泣いていると、気持ちも身体も落ち込むぞ。」
ヒョンジャはセーターの袖を捲り上げて並んで洗い物を手伝ってくれた。
「一人で洗うから、仕事に戻って。」
「今日は休みだ。」
白衣を脱ぐといつものヒョンジャと違って見える。
「まだ引きずっているのか?」
「え?」
「雑誌の・・・・・相手の男の事。」
「違うとは言えないけど・・・・・自分が情けなくて・・・・」
またスンミの目から涙が落ちた。
「気晴らしに散歩でもするか?風が今日はないし気温も低くない。」
「食器・・・・洗わないといけないし・・・」
「代わってもらえ。ひとりでこれだけの数を洗ったんだ、もう終わっても許されるさ。」
有無を言わせずヒョンジャは近くにいた人に一言告げた。
「ほら、行くぞ!」
スンミの細い手首をつかみ、焚火の片付けをしている人たちがいる広場と反対の方へ連れて行った。
古いブランコが置かれている公園のベンチにスンミを座らせて、その横にヒョンジャも並んで座った。
何を聞く事もしないで二人は誰も乗っていないブランコを眺めていた。
「私ね、今まで叱られた事も褒められた事もないの。」
「いいじゃないか。オレなんて人生叱られっぱなしだ。褒められたのはパラン大医学部に受かった時だけだ。」
ヒョンジャのふざけたような言い方にスンミはクスッと笑った。
「あの記事・・・・一部だけは事実なの。ずっと好きで高2の時から付き合っていたの。でも、そう思っていたのは私だけの気がするの。大学へ車で送ってくれたり迎えに来てくれたり。車の中でも後輩の指導法に付いての話をしたり、休憩室にしている倉庫で一緒にDVDを見て・・・・それだけ。何もなかったとは言えないけど・・・でもキスだけよ。それも一回。」
「スンミの事を大切に思っていたんだな。」
「そうかな?」
「男は本当に好きな人を大切にするさ。」
スンミもヒョンジャも、サンが大切に思っている人がハニだとは知らない。
サンがハニを想い続けていて、スンミがそのハニと似ているから特別に接していたとは知らない方がいい。
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