明日はまだ何もない明日(スンミ) 29
――― コンコン
背の高い二人の男子学生が、静かなフロアにある部屋のドアをノックした。
「はい、どうぞ。」
ノックをした方の青年が、ドアを開けた。
「親父、今いいか?」
「あぁ、スンリ・・・・・ヒョンジャ・・・入って。」
スンジョは広げていた本を閉じ、ノートパソコンも閉じた。
「何か飲むか?」
「いらないよ。後からヒョンジャと飲みに行く約束だから。」
約束なんてしていない。
父と一緒に飲みながら話すより、ヒョンジャが父に報告する事をしたら、サッサとどこかのカフェで飲んでいる方が気が楽だった。
「例の事ですが・・・・・自分には責任が重くて・・・・無理です。」
ヒョンジャは、スンジョが座ると直ぐに自分の気持ちを話した。
「おい、スンミはお前になら任せてもいいと思ったから、ナ先生に頼んだのに。どうしてだよ。」
「悪いスンリ・・・・・・教授・・すみません。オレには荷が重いです。」
「ヒョンジャ!」
スンジョは飲んでいたコーヒーのカップを静かにテーブルの上に置いた。
「スンリ、まずヒョンジャの話を聞いてみてもいいだろう。ヒョンジャ、スンミの事は荷が重い?」
「はい。彼女が高校二年の頃から知っていましたが、傷付いている彼女を立ち直らせて・・・・・・まではいいですが、ペク家の一員にはなれません。」
「ペク家は特別な家でもないと思うが?」
「教授やスンリにとっては特別な家には思わないかもしれないですが、オレ達部外者にしたら特別ですよ。パランの天才とその家族の繋がり。教授のその頭脳とその妻の性格・・・・両親の良い所を受け継いでいる人の子供たち。オレにはその一員になる事は無理ですよ。成績だってスンリの次で悪くはないですが、必死になって勉強してそれが限界です。性格にしたって、いい方では無く口は悪いですからね。教授やスンリが恥を掻くだけですよ。」
同じ顔をした父と息子は同じ笑い方をした。
「性格はオレの親父の方が悪いぞ。」
スンジョは息子スンリの言葉にニヤリと笑った。
「スンリの言うとおりだ。君を選んだのは、スンリの友人だからだけではないよ。自分の教え子で、人の何倍も努力をするその性格と、努力した事を決して表に出さない。その性格の人間が好きでね・・・・自分の娘の将来の相手を探していた時に、スンリから君の話を聞いて決めたんだよ。」
スンジョはスンミがサンを忘れて、前に進むようにするにはどうしたらいいだろうかと考えていた時に、スンリが自分の友人なら大切な妹を託せる事が出来ると、父にヒョンジャを紹介した。
簡単に言えば、スンジョとスンリで見合いを設定したのだ。
この事はスンジョとスンリの二人しか知らない事。
グミやハニとスンハに判れば、また余計な事をしてスンミとの自然な出会いが台無しになってしまう事が判っている。
「簡単に言えば、7人の子供の中で親父が溺愛している娘は最愛の妻とそっくりなで、そのスンミを妻子持ちの男から救うためにどうしたらいいのかと考えていた時に、オレがお前の話をした。ヒョンジャ、お前はお袋に似ているんだ。」
「スンリのお袋にか?」
「勉強は出来る方どころか人の何倍もしても人並みに出来ないが、努力を苦痛とは思わずにしている所がさ。親父はお袋のそんな所が好きだからな。」
「ペク家はどこの家と同じ人間の集まりだ。噂されているほど特別じゃないよ。君に誰か好きな人がいるのなら、この話は無い事にするが、出来れば君をスンミの将来の相手にしたいと、スンリと決めた。勿論、強制はしない。まだスンミも学生だし、君も研修医という立場だからもっと自由でいたいのならそれでいいよ。」
嫌いではない。
スンミの事は、あの学際で見た時に一目ぼれをした。
友人の妹だから、自分の気持ちを押さえていた。
自由でいたいと言えば、それはこの見合いの話が無くなったと言う事になる。
「ヒョンジャ、お前さ・・スンミの事が好きだったんじゃないか?」
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