明日はまだ何もない明日(スンミ) 30
「はっ?な・・何をいきなり言うんだよ。」
「お前のその言い方。つまんないラブコメのツンデレが、本当はダレダレの事が好きなんだろ?って、聞かれて焦った男のセリフみたいだ。」
ゴホッゴホッ
ヒョンジャの方とは違う方向から咳き込んでいるのが聞こえた。
「親父どうかしたのか?」
「いや・・・何でもない。」
グミによく言われている事をスンリがヒョンジャに言っている事にスンジョは気恥ずかしく、飲んでいたコーヒーにむせた。
この男なら、愛娘を任せられるかもしれない。
不器用で、どこか自分と似ているこの男を見ていると、昔の自分を見ているようだった。
「ヒョンジャ、君が娘の事をどう思っているかは別として、静養所から届くスンミの状況が良くなっている事は聞いている。将来の事を即決で返事をしろとは言わない。君だって自分の目標もあるだろうし、そのために正式な見合いという形にはしなかった。もちろん、スンミは例の事があったばかりでそんなお膳立てをした両親や兄に反発するだろうから、今までどおり君の決心がつくまで、ただの研修医として接してくれないか?」
この余裕のある二人の親子を見ていると、スンミはこの家族にとって大切にしたい娘だとよく判る。
そんな娘の見合い相手に自分が選ばれた事は、きっと他の人間から見れば羨ましがられる事は判っている。
「時間をかけて、考えさせてください。気が重い事には変わりはないですが、今は一人前の医師になる事に専念します。」
これほど慎重に行動する自分ではない。
スンミが好きだから、傷付いている彼女に仕組まれたこの出会いをまだ知ってほしくない。
今どきの女の子と違って、見かけも心も繊細だ。
両親や家族の愛情を貰って育っているスンミの一生を、短期で不器用な自分に任せてくれた教授の気持ちが重く感じる。
スンリと飲んでいても、気持ちは楽になる事は無かった。
「じゃ、帰るな。」
「あまり深く考えなくていいから。スンミには普通の恋愛をして欲しいだけだ。お前が気にするほどペク家は特別じゃないぞ。親父が有名なだけで、お袋もオレ達兄弟もどこにでもいる親子だよ。」
「ハンダイの一族でもあるだろ。」
「あれは叔父の会社だ。」
長年付き合って来たから判っている。
スンリがハンダイの一族という肩書をチラつかせたりしない事も。
「また、来月の休みに来るよ。」
薄暗くなった空に星が光り、冷たくなった空気に吐く息も白い。
スンミとヒョンジャの出会いは設定されていたもので、スンミに内緒で進められている話。
いつまでも内緒でいる事は出来ない。
本当の事を言うのは誰が一番いいのかは決められないが、スンミへの思いを押さえて今は早く退所できるように、体力を付ける事に専念しないといけないとヒョンジャは思った。
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