明日はまだ何もない明日(スンミ) 31
夕食を終えた患者が一人ずつトレイを持って下膳する。
白衣を着ていなくても、静養所の建物の中にいる人たちはお互い顔見知りで、食べたものの残り具合を見てもそれが誰なのかが分かる。
「またアイツ、あまり食べていないな。」
主食半分以上と、副食はほとんど残している。
ヒョンジャは、大股でそのトレイを配膳されていた人の部屋に向かった。
――― コンッ コンッ
特徴のあるノックの仕方がその部屋の主には誰が来たのかがすぐに判った。
「キム・ヒョンジャでしょ?」
勢いよくドアを開けてヒョンジャはその主を睨むように入って来た。
「フルネームで呼ぶな。それにお前、また食べなかったのか?」
「患者に何よその言い方。食事だっていつも通り食べたわよ。私は食が細いからアレでも頑張った方よ。」
ヒョンジャは持って来た包みをその人物であるスンミの前に翳した。
「どうしたの?それ・・・・うちのランチバックみたいだけど・・・・・」
「スンリに頼まれた。」
「兄と知り合いなの?」
それとなく、スンリと知り合いである事を話して行こうとヒョンジャは決めた。
いつまでもこのままでは、自分の気持ちを知ってお膳立てをしてくれたスンリに悪いと思い、変なプライドを少しずつはずして行こうと思った。
「知らなかったか?高校からの親友だ。」
「知らなかった・・・・・どうして今まで言ってくれなかったの?」
「患者と医師との関係には必要ないだろ?この弁当は、スンリから頼まれたんだ。お前の弟が作ったらしい。」
「スンギね?」
スンミはそのバックから弁当箱を取り出して蓋を開けると、彩を綺麗に並べた料理が入っていた。
「スンギってね、まだ高校生なんだけど料理が得意なの。オンマが苦手なのに誰に似たのだろうって、よく言われているの。おばあちゃんも料理がすごく上手なんだけど、スンギのはどこか懐かしい味の、そんな料理を作るの。ヒョンジャも食べない?」
「オレはいいよ。」
「食べてよ。私こんなに食べられないし、それにあなた白衣は来ていないから仕事中じゃないでしょ?」
スンミは数時間静養所にいなかっただけなのに、相変わらずぶっきら棒なヒョンジャが目の前に姿を見せると嬉しくて仕方がなかった。
ベッドから降りて、取り分け用の皿をミニテーブルに並べて、スンギの作った料理を盛り付けている姿をヒョンジャは黙って見ていた。
「どうしたの?今日は何も話さないの?体重のチェックはしたかとか、外に出て陽に当たったのかとか・・・・」
「別に・・・・聞いたって『したよ』とか『当たったよ』と言うだろ?」
「まぁ・・・・何かあったの?」
「・・・・・・・・・オレの事をどう思う?」
ヒョンジャの心臓は爆発しそうだった。
まるで初めて献体を解剖する時の様に、身体全体と心が緊張をしていた。
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