明日はまだ何もない明日(スンミ) 32
ヒョンジャの言った言葉の意味をどうとっていいのか。
言ってしまった事を聞いて、何も言わないスンミに多少後悔をしているヒョンジャは、コホンと一つ咳払いをして椅子から立ち上がった。
「どうかしたの?パランに行ってアッパかスンリお兄さんに何か言われたの?」
「いや・・・・そう言うわけじゃないが、オレは口が悪いし、家族にそんな扱いをされた事がないから、ムカつくんじゃないかと思ってさ。」
「うん、ムカつくよ。私は知っていると思うけど、アッパに溺愛されて育って、恵まれた環境で育ったから苦労もしていないし。でもね、嫌じゃなかった。私がここに来た理由も知っているのに、その事を普通は責められても仕方がないのに、私が前を向いて歩けるようにしてくれているみたいで・・・・・・スンリお兄さんに似ているから、すごく気が楽だった。」
「そうか・・・・・・今日は休みだからここのスタッフとしてではなく、一人の人間として話すよ。」
ヒョンジャはまた一つ咳払いをして、大きく深呼吸をした。
「オレとさ、普通の大学生としての時間を楽しまないか?」
ガラでもない事を自分の口から出して、それを聞いたスンミは無言でこちらの顔を見ているのがよく判る。
しんと静まり返ったスンミの部屋に聞こえるのは、廊下を歩いて行く人の足音と遠くで誰かが話をしている声。
「プッ!」
吹き出したと思ったら、スンミはお腹を押さえて声を出して笑い始めた。
「熱でもあるの?そんな事を言うなんて、イメージが違い過ぎるわ。もしかして、私の事が好きになったとか?」
無邪気な少女のような笑顔で聞いて来るスンミの顔が、何とも言えないくらいに明るく傷ついた心がかなり癒えたように見えた。
「好きだよ。」
「嘘っ!」
「嘘じゃない。」
「私が妻子ある人の事で傷ついたから憐れに思っているんでしょ?」
さっきまでのスンミの明るい表情は消えてしまった。
「違うよ。君の事はもっと前から知っていたし、君を初めて見た学際の時から好きだったよ。」
はっきりとスンミに自分の気持ちを伝えたら、今まで胸の奥で仕えていた物が取れたように思えた。
「君は自分が例の男と付き合っていた事で、何か将来を諦めているように見える。でも、人は前に歩いて行くものだし、過去を引きずったり過去を振り返るのじゃなくて、自分が信じている物を見つけてそれに向かって歩いて行けば、人間としても成長すると思う。」
「無理よ。私のした事は消えないわ。雑誌にも載ってしまったし・・・・いくら名前も写真も出ていなくても、ハンダイ一族だとかパラン大医学部教授の娘だとか書かれたら、誰もがそれが私だと判る。」
「オレが傍に付いていてやるから、そんな事は忘れるんだ。過去の事は消える事はないが、明日という日はまだ誰もどうなるのか何があるのかは判らないし、その後もない真っ白な日だ。明日はまだ何もない明日だから、新しい人生を考えてみないか?」
今まで知っている中でのヒョンジャの言葉とは違う、なんだか心が温かくなるような言葉に、スンミは目頭が温かくなる感じがした。
0コメント