明日はまだ何もない明日(スンミ) 34
毎朝決まった時間に測る体重。
そんなに簡単に少ない体重が増えるわけでもないし、昨日より増えたというわけでもないのに、自分の考えを変えただけで一日が楽しくなりそうな気がする。
「はぁーどうしたら体重が増えるのかなぁ~。もう、バレエは辞めたのだから体重管理はしなくてもいいと思っていたのに。」
スンミは自分のチェックノートに朝一番の体重を書いた。
治療という治療をしないといけない静養所ではないから、自分自身で社会復帰するだけの生活の一日は長い。
体重を減らす人には運動のメニューがあるが、術後の体力を回復する人やスンミのように日常生活を支障無く過ごす事を目標にしている人には、何もしない生活には退屈な所でもある。
その為にあるものの一つが、畑での自給自足作業。
その作業が土に触れた事のないスンミには、勇気のいるリハビリだった。
「ペクさん、どうかされましたか?」
部屋の中ばかりにいたスンミが畑に通じる出入口にいると、通りかかった看護師が声をかけて来た。
「畑に行こうと思って。」
「主治医に聞いて来ますから、そこのベンチで待っていてください。」
そう、ここは静養所だから何か新しい事をするのなら、主治医に許可を得ないといけなかった。
スンミは期待するようにベンチに腰掛けて、窓の外を見ながら主治医を待っていた。
「待たせたかな?」
いつもと違う声だと分かったが、多分ここに来て一番の笑顔だったかもしれない。
「いいえ、そんな事・・・・」
ヒョンジャが来るのを期待していたスンミは、ヒョンジャではなかったのが分かるとそれが思わず表情として表れていた。
「悲しいなぁ、そんなにがっかりした顔をして・・・・・・」
スンミは担当医のキム・ジョンスの言葉に、両手で頬を挟んだ。
「ガッカリ・・・・していましたか?私。」
「してたよ。ヒョンジャじゃなくて悪いな。」
確かにスンミはヒョンジャじゃなくて、ジョンスだった事でガッカリはしていたが、それほどハッキリと顔に出ているとは思わなかった。
「ヒョンジャはどうしたのか、昨日休みを取ったのがまずかったのか、熱が出たらしくて休んだよ。ずっと休みなしで来ていたから、一気にそれまでの疲れが出たんだな・・・・・・・脈もいいし、貧血もなさそうだし・・・・・・いいよ畑に出ても。」
熱が出た・・・・・
職員のプライベート区間は畑のある方と逆方向。
行って様子を見てみたい気もするし、行かなくてもここは静養所で医師や看護師は沢山いるのだから、看病はしなくても別にヒョンジャは困るわけでもない。
スンミは、先日芋掘りをして掘り起こされた畑に落ちている葉を拾いながら歩いた。
ここに来た時から毎日嫌味を言ったり意地悪を言ったり、最初は本当に口が悪くて顔も見たくなかった。
秘密にして付き合っていたサンと引き離される様に、ここにスンジョに連れて来られた。
熱も下がらず、食事も喉を通らず、人を恨んだらどんなに楽なのだろうと思っていた。
どうせこの静養所も、父が自分の為に選んだ場所で、担当医も担当看護師も父の気に入った人ばかりで、自分には自由もなく進む路も何もかも父の思うとおりにしか動けない。
息がつまりそうだと思っていたその時に、担当医師に伴われて入って来たヒョンジャと出会った。
ヒョンジャはスンミが今まで出会った人たちとは違うタイプで、間違っている事や我儘を言ったりすると、大きな声で怒鳴りつけていた。
誰も今まで自分にそんな風に怒鳴った人はいなかった。
一つ一つが自分で決めなければいけない事を、自分で決める様にどうしたらいいのか迷っていると、決してこうしろとは言わないで『自分で決めろ子供じゃないのだから』そう言って突き放していた。
自分で小さな事を決める事が出来るようにはまだ出来ないが、今は自分でこうしたいという思いが表れて来た。
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