明日はまだ何もない明日(スンミ) 37
「先生・・・・先生・・・・水分を摂ってください。」
スンミはヒョンジャの耳元で呼びかけた。
肩を叩こうと思ったが、近くまで手が伸びるが触れる勇気が無かった。
自分にはたくさんの兄も弟もいるし、バレエ教室に通っていた時にもサン先生に触れる機会はあった。
なぜなのか、熱で魘されているヒョンジャの肩に触れる事が恥ずかしい。
「先生・・・キム・ヒョンジャ先生・・・・水分を・・・」
何度目かの呼びかけに、ヒョンジャは目を開けてスンミの方を見た。
「スンミ?」
「水分を・・・・医者が熱を出したらダメじゃないですか。」
起き上がるヒョンジャは熱の所為で身体を支えようとしていた片手に力が入らず、ベッドに倒れ込んでしまった。
スンミはゴクンと唾を飲み込んで、勇気を出して背中に手を入れて反対側の方をグイッと引き寄せる様に起こした。
「体温と同じくらいです。ゆっくりと飲んでください、私が支えていますから。」
背中を支えている手から伝わる熱が高くて、さっきまでのドキドキとした恥ずかしいという気持ちが薄れていた。
父や母に自分はよくこうしてもらっていた。
ゆっくりゆっくりと飲み込むと、それに合わせて身体にしみ込んで行くのが判った。
ああいう時は飲みたくない薬とは違っていても、身体がホッとするような気持ちになった。
あっという間に飲み干したカップを、ヒョンジャから離して横になろうとしている身体に手を貸した。
「先生、判りますか?」
「あぁ・・・・・」
まだ朦朧としているが、会話は何とか出来そうだった。
「診察はしてもらったのですか?」
「してもらってない・・・・・けど、大丈夫だ・・・・・自分の部屋に戻れよ、移るぞ。」
前のスンミだったら、言われなくても病気の人の側には近づかなかった。
「昨日、元気だったのに・・・・・」
「池に落ちた。」
この寒い時期に池に落ちて、濡れているのに関わらず夜中に静養所を歩いていた。
風邪が流行りだしていたからヒョンジャは気を付けていたが、こればかりはいくらヒョンジャが身体ががっしりとして健康そうに見えてもどうしようもなかった。
「もう少し眠るから・・・・・部屋に戻れ・・・・・」
そう言うとそのままヒョンジャは眠り始めた。
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