明日はまだ何もない明日(スンミ) 38
初めての看病に疲れているのか、ヒョンジャの部屋に入ってから3時間。
スンミはいつの間にか、ヒョンジャのベッドの端に頭を乗せて眠ってしまっていた。
熱はまだあるものの、だいぶ楽になったヒョンジャは、そこで眠っているスンミに驚いた。
患者に看病されたとなっては、それが誰かに見られたりしたらここからどこかに飛ばされてしまう。
そんな事は判っているが、無邪気な寝顔でそこにいるスンミの顔に見とれていた。
小さく開いた口から白い歯が見え、スースーと可愛い寝息を立てている。
その柔らかそうな唇に触れてみたくて指を伸ばすが、触れる事なくまた手を引っ込めた。
「おい、おい・・・・・」
「ん・・・・・」
「おい」
何度か声を掛けると、静かに目を開けた。
「わ・・私眠っちゃった。」
「なれない事をしたから疲れたんだろ?」
いつものツンケンとしたヒョンジャとは違って、優しい表情のヒョンジャにスンミは胸がドキドキとした。
先生は熱があるからこんな風に優しい顔なのよね。
昨日の事は、冗談でからかっているだけだから。
「熱を測らないと・・・今日、お休みだって聞いたからお見舞いに来たの・・・私・・熱を・・・・」
昨日の事があったから、スンミは普通にしていようと思えば思うほどパニックになりそうだった。
手を伸ばしてヒョンジャのおでこに無意識に触れようとした時、その腕をヒョンジャに掴まれた。
「な・・・なに・・・」
「幾ら熱があっても男の部屋に無防備に入って来るなよ。お前はそんな女か?」
さっきまでの優しい顔から、急に怖い顔になり、さすがにスンミもその手を振りほどこうとするが、しっかりと握られて振りほどく事が出来ない。
「・・大丈夫よ。キム先生はそんな事をしたりしないから・・・・・」
「そんな事?そんな事ってどんな事だ?」
スンミの腕をギュッと引っ張れば、逃げようとしているスンミであっても、力はヒョンジャの方が強い。
「からかっているんでしょ・・・・どうせ、私は妻子ある人と付き合っていたんだから。」
「・・・・・・・・」
何も言わないヒョンジャが怖くて、スンミは俯いて唇をギュッと噛んだ。
「どうせ、阿婆擦れなんだから・・・・キム先生が何をしようと・・・キム先生が私に何をしようと・・・・・・ぅっ・・・・」
ポトンと涙を落とすと、ヒョンジャはスンミをグッと引っ張り自分の方に引き寄せた。
引き寄せたが、熱があるからそのままベッドに倒れ込んだ。
「はぁ~何もしやしないよ。熱があるのにする気もないよ。お前は人を信じ過ぎるんだよ。そう簡単に男を信じて部屋に入って来るな。」
顔こそ向き合っていないがスンミはヒョンジャの胸の上に顔が乗っていた。
頭にかかるヒョンジャの息が、スンミの心臓を速くしている。
「だって、熱があるって・・・・」
「熱があったって、オレは研修医だがちゃんとした医者だ。自分の事は自分で判るし出来る・・・・とは言えないか。お前が水分補給をしてくれて薬まで飲ませてくれたのだから。」
無意識にヒョンジャは胸の上にいるスンミに回している腕に力が入ったが、スンミはそれから逃れる事はしなかった。
「ありがとうな。」
「先生・・・・」
「お前は優しい子だよ。阿婆擦れなんかじゃないし、そんな事はもう言うんじゃない。アイツとはどこまでの付き合いかは知らないし、知る気もないよ。オレはスンリとは違って直感で人の性格が判るわけではないけど、お前は心がとっても奇麗だから一目ぼれをしたんだ。お前のお袋さんに似ているから教授がお前を一番可愛がっているとスンリから聞いたけど、一度仕事をしているお前のお袋さんを見た時に、スンリの言った通りでよく似ているよ。教授が奥さんをすごく愛しているのは有名だし、溺愛している娘をオレに紹介したのには驚いたけど。」
「え?紹介?アッパが私を紹介したの?」
『しまった』と思ったヒョンジャが腕の力を緩めた瞬間にスンミが顔を上げた。
熱のある唇とヒンヤリとした唇が触れ合って、お互い動く事が出来なかった。
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