明日はまだ何もない明日(スンミ) 39
熱で潤んだヒョンジャの瞳と、驚いて見開いているスンミの目は逸らす事もしないで、お互いにぱちりと瞬きをすると、スンミの長いまつ毛がヒョンジャの目に入った。
「いっ!」
ドンとスンミを押してヒョンジャは目を空いた手で押さえた。
「ゴメンなさい、まつ毛が入った?」
唸っているヒョンジャを心配そうに覗きこむスンミは、今にも泣きそうな顔をしていた。
「お前のまつ毛・・・・・長すぎだ・・・・静養所は病院と同じだ。付けまつ毛は付けるな!」
「付けていないよ。自前のまつ毛・・・・・・・」
まつ毛が刺さった方の目を抑えながら顔を上げると、目の前のスンミとまた目が合った。
「オレこそゴメン・・・悪かった。別にキスするつもりはなかった・・・・・・」
スンミの細くてひんやりとした指がそっとヒョンジャのおでこに触れた。
「少し下がったみたいね。検温してみた方がいいよね?」
「さすがにペク家の一員だな。看護師みたいだ。」
「別にうちじゃなくたって、検温するでしょ?」
「そうじゃない、普通は熱を測るというだろう?」
まだ熱があるもののスンミが来た時とは違って、楽になったのかいつものヒョンジャになっていた。
「どうして池に落ちたの?」
「どうしてって・・・・・酒を飲み過ぎて足を滑らせたんだよ。」
「お酒を?どうして飲み過ぎたの?仕事に支障があるような飲み方をするなんて、医師として失格ね。」
コイツ、オレがどうして飲み過ぎたのか判っていないのか?
言ってしまおうか本当の事。
「さっき言ったよな。お前のお父さんに紹介されたって。」
「う・ん・・・・」
「お前の事が好きなのは事実で、よくスンリに言っていたんだ。お前の妹が好きだって。まぁ、アイツもあまりそれを本当の事とは思っていなかった。オレは大体そんな事を平気な顔で言える人間ではないから。でも、あの時はスンリはお前が誰かと付き合っているとは思っていなかったし、知らない男の彼女になるのは嫌だから、親友のお前ならいいぞ。ただし、紹介するのは一人前の医者になって、親父のO・Kが出てからって。」
「アッパのO・K?」
「教授はお前を子供の中で一番可愛がっているし、身体が弱い事を理由に結婚はさせたくないと言っていたらしい。」
そこまで身体は弱いとは思っていないけど、疲れやすくて熱が出やすいだけ。
「運よく、教授の研究室に配属になって・・・・・これは偶然だけどな・・・スンリは親父とは違う所に行くと言っていたけど、友人としてオレを紹介してくれた。簡単に言えばオレはお前を他のヤツに渡したくなくて色々な手を使って近づいた。」
意外だった。
ビジュアルもいいし一番の成績のスンリの次の成績で、女子学生にも人気があるヒョンジャの意外な一面。
パラン大全体で女子の人気ナンバーワンとナンバーツーがスンリとヒョンジャ。
スンリはソラという婚約者がいても、女子学生と飲みに行ったり食事をしたりする、いわゆる遊び人に見えるが、ヒョンジャは自分に寄って来る女子学生をいつも無視しているから、女好きではなくて男が好きなのじゃないかと、兄たちと違う女子大に通っているスンミの所でも噂になっていた。
「私の事を知っていても、付き合ってくれるの?綺麗な身体じゃないのよ?」
「綺麗な身体じゃない?・・・・あの男としたのか?」
「したって・・・・・・あっ!・・・・したらダメ?」
「複雑だ・・・・けど。オレだってそれなりに付き合った女はいたからな・・・・・」
「ちゃんと言って、それでも付き合うって言うのなら・・・・考えてみてもいいけど・・・・したの・・・・キス・・・・」
「ヘッ?キスで身体が汚れるのか?」
「違うの?だって・・小さい頃にオンマが『キスは本当に好きになった人だけの為に取っておきなさいって』・・・オンマのファーストキスは大好きなアッパだからって・・・・」
大人びているようで何も知らないスンミが、急にどうにもならないくらいに可愛く思えて来た。
「マジで、オレはお前が好きだよ。さすがに伝説のオ・ハニの娘だ。」
ヒョンジャは思っていた以上にスンミが今どきの女の子と違って、純粋で可愛くてしかたがなく思えた。
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