明日はまだ何もない明日(スンミ) 41
社会復帰を目指す事が目標の静養所で、そのために世間からほぼ隔離状態で空気の綺麗所で体力づくりをしている入所者。
日々の健康管理はしっかりとしていて、免疫力のない患者でも風邪を引いたり熱を出したりする事が殆どなかった。
それが売りの静養所で、パラン大医学部教授の娘が熱を出した。
所長はただひたすらヘコヘコと頭を下げて、スンミの様子を見に来たスンジョに『自分の責任が至りませんで・・・・』と謝っていた。
「こればかりは仕方がないですよ。娘は、元々すぐに熱を出す子供でしたし、ここに入れたのは心を強くするためなので、そう謝らなくても大丈夫です。」
スンジョはスンミの様子を見ながら、謝り続ける所長にそう話をした。
静養所に入れようと決めた時は、精神的にも不安定でその少し前から体調を崩していたから。
その頃はスンスクと結婚したミラも妊娠初期で、不器用なハニがミラだけでも手一杯なのにスンミまで問題を起こしてしまったら、一番困るのは他の幼い兄弟たち。
「所長、あとは私が見ていますので仕事に戻ってください。娘もここに来た頃よりは陽に焼けて随分と顔色がいいみたいで、それほど悪い状況でもないです。」
スンジョの大きな手がスンミの小さなおでこに触れると、スンミが静かに目を開けた。
「アッパ・・・・・・」
「所長から連絡があって来たけれど、そんなに心配する事はない。オンマもスンリも来たぞ。アッパはすぐに帰らないといけないけど、オンマが2・3日こっちにいるから安心しろ。」
「オンマ?」
ハニはベッドから差し出されたスンミの細い腕を小走りに近づいて受け止めた。
「ミラは?」
「体調も落ち着いて、順調に赤ちゃんも育っているわよ。でもね、病気の事もあってそのまま入院になったの。スンスクがね、スンミの傍にいてあげたいけど、自分はもう妻がいるからいてあげる事が出来なくてごめんねって・・・・あなた達小さい時からいつも一緒だったものね。スングはスアと同じ双子みたいに。」
ここに来る前は白いというより青白く、それなのに熱がずっと下がらず、妻子ある人と付き合っていると知って、先の事どころか現実を考えられなかった。
パランに入院させて、平気なスンジョ君の顔を見ていたのは私以外の人たち。
あの表情を変えないでいつも冷静なスンジョ君が、ベッドの端に腰かけて頭を抱えて泣いていた事を知っているのは私だけ。
「スンミも好きな人が出来る年頃だと、そう思えばいいのだけど・・・相手が、よくない相手だ。どうしてなんだろ・・・・・他のヤツを好きになってくれていたら。」
「スンジョ君、スンミをすごく可愛がっていたものね。」
スンジョ君がこんな風に頭を抱えて悩んでいたのは、医者になるのを諦めなければいけなくなった時。
あの時と同じように私はスンジョ君を抱きしめていた。
あの時と違って、スンジョ君は私に抱きしめられると向きを変えて今度は私をギュッと抱きしめた。
「家で夜中に産まれた時は、本当に小さくて育つのだろうかと思ったよ。本当の事を言えば、病院に運ばれた時、小児科の医師から諦めろと言われた。」
知らなかった。
私が気にすると思って、何もその時は言わなかった。
「ハニにも誰にも言っていなかった。子供の生命力は思わない時に発揮するけど、医師としてより親として何とかしてあげたかった。」
天才で何もかもが完璧に出来るスンジョ君の初めて見た弱い姿。
私とお母さんを含めた9人の家族を守るために、いつも堂々としていたけど、スンミの事は特別だとよく言っていた。
私に似ているスンミを、何も苦しむ事なく幸せにしてあげたいと・・・・
0コメント