明日はまだ何もない明日(スンミ) 44
「もう、見ないでよ!キム先生!」
意外と丸みのある胸に見とれていたわけではないが、自分の気持ちを伝えたからか、スンミもオレの顔を見て顔を赤くしていた。
「スンミの風呂に入れた事もあるのに何を恥ずかしがるんだよ。」
「いつの事よ!もう・・・・チョッと目を瞑ってよ。」
「目を瞑っても、スンミが生まれた時の事も忘れていないから、お前の貧乳もしっかりとインプットしたぞ。」
「そんなことアッパに言ったら、アッパに親子の縁を切られるんだから!」
この兄妹は黙っていれば綺麗な兄妹でいられるのに、スンリのキャラだろう、漫才のような掛け合いになる。
言われた通りにスンミが着替えている間、背の高い二人は背中を向けて出入り口の方を向いて立っていた。
情けない二人のその後ろ姿を、スンミは面白くて仕方がなかった。
「もういいわよ。」
母が持って来たのだろう、真新しいリラックス着に着替えたスンミのほんのりと赤みの射した頬は、熱の所為ではあるが可愛く見えた。
ヒョンジャは、無意識に腕を伸ばしてスンミのおでこに触れた。
「まだ熱があるな。薬だけじゃなくて、水分を摂って汗を掻いたらすぐに着替えるんだ。点滴は寝る少し前にもう一本打っておけば明日には下がるよ。」
「ありがとう。」
ヒョンジャの気持ちを知っているから、スンミは真面に顔を見る事が出来ない。
兄がそこにいなければ、こうして冷静に話が出来るかは判らなかった。
「スンミ、オレ邪魔みたいだから、お袋と食堂で何か食って来るよ。」
「お兄さん・・・・」
ヒョンジャは有り難いような、スンリが作ってくれたこの機会をどうしていいのか判らなかった。
自分はハッキリではないがスンミに振られたようなものだ。
ここにいる間は、無理ではあるが医師と患者の関係でいようと思っていた。
どちらかというと男らしい顔のヒョンジャの耳元に囁こうとしているスンリの綺麗な顔が、いたずらっ子のようにニヤリと笑った。
「振られたかどうかもう一度自分の気持ちをはっきりと言えよ。スンミは今まで自分の事を好きだと言ってくれた人がいないから、返事に困っているだけだ。好きでもない男の看病なんてするような子ではないから、もっと自信を持てよ。」
ポンポンと肩を叩いて、スンリは部屋を出て行った。
「もう、どうしてお兄さんは・・・・何か勘違いしているみたいだけど、先生も診察に来たのなら最初にそう言ってくれればいいのに。」
スンミは細い腕を伸ばして、検温の記録等を書いた紙をヒョンジャに渡した。
「アッパが、もう下がって行くから心配しなくていいって・・・、ここに来てから元気になったし体力が付いたから、それほどひどくはならないだろうって。」
一日の行動記録をボードから外し、ヒョンジャの前に出すが、ヒョンジャの視線はその記録ではなくスンミの目を見ていた。
「オレの気持ちを話したけど、君に振られてショックではないとは言えないしショックとも言えない。だけど、簡単に君の事を諦める事は出来ない。ここを出てから君が落ち着いて考えてくれればいいけど、出来れば早めに教えてくれるといい。」
「それって・・・・何だかプロポーズのセリフみたい。」
「そうだな、でも・・・・そうとってもいいよ。医師として一人前の男として、スンミが困った時には助けて行きたい。もしここを出て他に好きな男が出来たら、それはそれで本当に君の事を忘れるから、ここにいる間は社会復帰が出来るまで助けるよ。」
ヒョンジャのプロポーズのような言葉にスンミの目が潤んだのは、言った本人は気が付いていなかった。
0コメント