明日はまだ何もない明日(スンミ) 49
血液検査の結果は、夕方には連絡が入る。
ここを出て家に帰る事は嬉しいが、素直に喜ぶ事は出来ない。
採血をする時にヒョンジャが言った言葉に、また涙が出て来た。
「採決は形式的なものだ。先週ペク教授が来た時に所長と話していたから、その時に退所しても問題が無いと結論が出たんだろうな。もうここには戻って来ない様に、帰ってからも時々天気のいい時にはのんびりと散歩でもするといい。」
兄の友人とか、親しくなった友人のひとりとかの話し方ではなく、事務的に医師としての話し方だった。
「バカ・・・・私の事を好きだと言ったのに、そんなに冷たい言い方が出来るの?ほんのちょっとキム先生の気持ちに応えられそうになったのに、それが言えない私の気持ちも判ってよ。私は、恋愛をする資格がないの。雑誌にも載ってしまった事知っているじゃない。全部本当ではないけど、あれは事実なんだから・・・・・その事があるから、先生の気持ちに応える勇気が無いの・・・・・」
部屋の中の椅子に座って本を開いていても、読む気持ちにもならなかった。
誰もいないと思っていた部屋で呟いた独り言。
誰もいなくはなかった。
「誰なの?スンミを泣かせた男は。」
「お姉さん・・・・・・来てくれたの?」
「弟のスンリが来たのに、姉の私がお見舞いに来ないと立場が無いわ。スンミは私の大切な妹だもの。」
大きくなったお腹を庇いながら、スンミの向かい側の椅子に座った。
最初の子供インハは既に小学生で、スンミの双子の弟と妹と同級生。
二人目が出来るまでは、夫のインスンの海外赴任が有ったりで、自分たちと同じように歳の離れた兄弟になった。
「来なくてもよかったのに・・・・お腹が大きいと運転して来るのも大変でしょ?」
「そんなに大変でもないわ。アッパから、スンミの退所の話が出ていると聞いて、どんな所で生活していたのか知りたくてね。畑に出たり草取りしたりするなんて、あのスンミがしているのかと思うと、一度見てみたくて。」
畑に出たり草取りも、他の人のようにあまりしなかった。
結局ここに来ても、人と仲良くする事も出来ず、キム先生とだけしか話もしなかった。
私は人と接することが苦手・・・・・
「で、どんな人なの?私の大切な妹のスンミの心を弄ぶ男は。」
「弄ばれていないわ・・・・・・スンリお兄さんのお友達の人で、アッパの教え子の一人だって・・・・・」
「へぇ~、アッパとインスンと同じくらいに素敵な人なの?」
「うん・・・・・」
グミ二世のスンハではあっても、父の血もしっかりと受け継いでいる。
スンミをスンリに対するように、からかったり茶化したりしては傷つけてしまう。
「その人への気持ちは、スンミにとっては大切な物みたいね。告白してみればいいのに。」
「ダメよ、お姉さんも知っているでしょ?バレエ教室の先生との事・・・・・」
「知っているけど、あの事は忘れなさいよ。大体あの先生だっていけないのよ・・・スンミを利用するなんて・・・これは、アッパから話を聞いたの。オンマは何も知らないわ。」
スンミを通して母のハニを見ていた。
高校生の時から思い続けていて、お互いに親になったのにその相手の娘を利用していた事に、スンハは一時ではあったがバレエを教えてもらっていたサンに対して、信頼が出来なくなっていた。
「サン先生に何かされたの?もう終わった事なら話してもいいんじゃない?それを聞いたら、そのスンミが想いを寄せている人についての事を考えるから。」
「・・・・・・カナダ公演から帰国した時に・・・・・家に来てね・・・その時にキス・・・されたの・・・・」
友人の少ないスンミにとって、サンは特別な人でもあった。
幼い頃からずっとサンのバレエ教室に通い練習を続けて来たから、仲の良い友達が出来る機会もなかった。
「そっか・・・・・スンミにしたら初めてのキスだよね。」
「初めて・・・・・」
スンハはスンミよりも年が離れているが、同じ女の子としてその気持ちはよく判った。
何も言わずスンハはスンミの細い肩を、そっと抱き寄せた。
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