明日はまだ何もない明日(スンミ) 51
お姉さんがいる時で良かった。
一人だったら泣いてしまったかもしれないし、私きっと取り乱していたかもしれない。
「退所は、いつでも大丈夫だ・・・そうです。」
一枚の紙切れが、薄くて冷たいガラスの様に今にも割れてしまいそうに感じる。
何気なく触れたキム先生の手が温かくて、胸がキュゥンとしてしまう。
「君って・・・・・前にうちに来た事があるよね・・スンリの悪友だって。」
スンハの明るい声が、俯いているスンミの顔を上げさせた。
「スンリの姉さんですよね。よく覚えていましたね。」
「まぁね。職業柄、人の顔は忘れないからね。」
「スンリの悪友って・・・・オレそんなに悪い事をした覚えがないですけど。」
「ここで、妹の前で言ってもいいのかな?」
スンハの記憶力はスンジョ譲り。
勘違いはあるかもしれないけど、そのまま頭の中にインプットされている。
ヒョンジャにしても、特別悪い事をしたつもりはないが、品行方正な優等生でもなかったから気にはなった。
「別に、コイツの前で言われて困る事は無いですが。」
「コイツ?姉の私の前でコイツですって?おまけに私はパラン大の先輩でもあるのよ。」
こんな風に突っ込むところは流石にグミ二世だ。
そのグミ二世に、ヒョンジャは太刀打ち出来るのか。
「どうぞ、言っても構いませんよ。身に覚えもないし、特別に何もありませんから。」
顔を上げたスンミがまた顔を下げた。
先生の中では私はもう過去の人なのかな?
私が結局は素直になれないからいけないのよね。
「あのねスンミ、この人昔・・・・高校生の時だったかな?うちに遊びに来た事があったの。彼がスンリの部屋に来た時に何て言ったか教えてあげようか?」
「お姉さんって・・・・凄いですね。父親に反対されないために、計画を立てて妊娠するなんて・・・・・」
「あ~~~~~それは・・・・・」
初めて見るくらいに陽に焼けた顔を赤くするヒョンジャを見て、スンミは姉とヒョンジャの顔を交互に見つめた。
「思い出したの?でも大切な私の妹にそんな事をさせたくないからね。」
「何を言ったの?」
「き・・・・聞くな・・・・・聞かなくてもいいから・・・・」
スンハの口を手で塞ぐわけにもいかず、ヒョンジャはスンミの耳を押さえて自分の胸の中にしっかりと抱きかかえた。
「フフフ・・・・・お似合いじゃないの、そうしているとうちの両親みたい。思い出したのね、結局スンリもデキ婚だし、親友のあなたもそうしたらいいのに。スンミはね、小さい時から自分が思う前に父がしてしまうし母が代弁してしまうから、自分の気持ちを言う事が出来ないの。知っていると思うけど、ちょっとあった相手への気持ちも、初めて外に向いた行動なの。人を嫌いだという感情が無い子だから、それを恋愛と勘違いしていただけ。父とスンリがあなたに託した気持ちも判るわ。」
「知ってるのですか?」
「まぁね・・・・ペク家って秘密はバレるのよ。うちの父の気持ちも祖母がすぐに見抜いて、あの手この手で色々としたみたいよ。スンミが退所出来るのなら、私は今から実家に戻って退所のために迎えに来るように家族に言ってくるわ。電話を掛けてもいいけど、少し時間を作ってあげるからもっとお互いに近くになって。」
ヒョンジャの胸で耳を塞がれているスンミにも、姉の話が聞こえていた。
ヒョンジャの心臓の鼓動と自分の心臓の鼓動が、同じくらいにドキドキしてる事になんだか幸せな気分になっていた。
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