明日はまだ何もない明日(スンミ) 52
パタンとドアの閉まる音がして、二人は我に返った。
「あの・・・・・離してください。」
「ぁあ・・・ゴメン。」
スンミの柔らかな髪がヒョンジャの白衣のボタンに絡まって、動く事が出来ない。
「動くな・・・・髪の毛が絡まってる。」
「えっ!そんな・・・・い・・・痛い・・・・・」
「だから、動くなって言っているだろう・・・・・」
「ごめんなさい・・・・・」
そっと絡まった髪の毛を解そうとしても、解す事が出来ない。
「切ってもいいよ・・・・・」
「切ってもいいって・・・・」
「うん、いいの・・・・・解こうと思っても解けないから。」
絡まっていると言っても、ほんの数本だけだが、絹糸のようにキラキラと柔らかく光る髪の毛はとても綺麗で、ペク家の家族の愛が沢山注がれているように見える。
「髪の毛ってまた伸びるでしょ?どうせ、毛先の方だし悪い所を切ってしまえばいいのよ。」
そうは言っても、切る物などヒョンジャは持っていない。
「切る物はあるのか?個室に鋏類の持ち込みは出来ないだろ?」
「そうだった・・・・それなら・・・・先生が白衣を脱いで、鋏を持って来てくれれば・・・・・・・」
そう言われても、白衣を脱ぐためにはまたスンミの髪の毛を引っ張らないといけない。
それでも何とか脱ごうとした時に、スンミの部屋に行ったきり戻って来ないヒョンジャを呼びに来た看護師が二人の密着している姿に驚いた。
「キム先生!患者さんと何をされているんですか?」
怒鳴られても仕方がない。
ヒョンジャとスンミは二人揃って、入口に立っている看護師の方を向いた。
「ペク・スンミの髪の毛が絡まってしまった。鋏か何か持っていたら切ってくれないか?」
「もう、先生ったら、患者さんの髪の毛が絡まるまで近づいて・・・・いったい何をなさっていたのですか。」
そう言われれば返す言葉もなかった。
看護師に怒られるわけでもなく、スンミの髪の毛を少し切って二人はようやく離れる事が出来た。
看護師が部屋を出て行くと、ヒョンジャは白衣を脱いで絡まっている髪の毛を丁寧に一本ずつ離していた。
「お姉さんにお兄さんと何を言ったの?」
「そ・・・それは・・・・チョッと言えない。親友との約束を破る事になるから。」
赤い顔をして額に汗を掻いているヒョンジャを初めて見た気がする。
スンミはおかしくて、手を口元に持って行きクスクスと笑い始めた。
「おかしいか?」
「うん、おかしい・・・・大体見当がつくわ。あの頃のスンリお兄さん・・・・・ちょっと意地悪を言う事が好きだったから。」
そう、スンミには判っていた。
あの頃、スンハが計画的妊娠をして父から結婚の許可を貰って一番傷ついていたのは意外にもスンリだったから。
「私もお姉さんみたいに出来たらね・・・・そんな勇気は私にはないから。」
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