明日はまだ何もない明日(スンミ) 53
「オレさ、お前に振られたけど、やっぱり諦める事は出来ない。お前の事が好きだ。どんな過去があっても、ありのままのお前が好きだ。一人の男として付き合うのが嫌なら、スンリ・・お前の兄さんの友達の一人として付き合ってくれないか?」
「私・・・・・」
「いいよ、返事をすぐにしなくて。一人の患者に時間をかけていたらへんに思われるから、もう持ち場に戻るから。」
ボタンに絡まった髪の毛を取り除き、白衣を羽織るように来てヒョンジャはスンミの方を振り返らずに部屋を出て行った。
ヒョンジャから渡されたメモを広げると、携帯電話の番号とアドレスが書かれている。
今まで誰ともアドレス交換をした事などなかった。
サンとの連絡をしていた時は、バレエ教室に登録している情報をサンが利用して、スンミと連絡をしていた。
学校も休みがちで親しい友人も少なく、ましてや女子大に通っていれば男の子からのアドレス交換を体験する機会はほとんどなかった。
嬉しくてメモを口元に持って行きキスをすると、仄かに香るヒョンジャの香り。
その小さなメモを胸に抱きしめて目を閉じ暫く考えて、自分のスマホにその連絡先を登録した。
初めてアドレスを書かれたメモをもらって初めてのメール。
画面を開いたのに、何の文章を入れたらいいのか、どんな事を書いたらいいのか。
何度も何度も書いたり消したりしながら10回目で入れたメールを、勇気を出して送信ボタンを押した。
「お・・送っちゃった・・・・・・」
送ったらもう取り消しなど出来ない。
返信がすぐ来るのかと、眺めていても返信は来ない。
「そうだよね。今はまだ仕事の時間。携帯は持ち歩いていないものね。」
スンミはヒョンジャから貰ったメモを、皺を伸ばせて古い本の間に大切に挟んだ。
お気に入りの本なのか、何度も呼んで表紙もボロボロで変色までしていた。
挟んだメモをまた取りだして、自分の一番お気に入りの言葉が書かれている所に挟み直した。
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