明日はまだ何もない明日(スンミ) 59
保養所の建物が見えてくると、視界の端にある畑のような所で誰かが手を振っていた。
「スンジョ君、誰かが手を振ってる。」
「そうだな。」
「スンミよ、スンミが手を振ってる。あの子があんな風に手を振るのを初めて見たわ。」
スンミは自己表現が苦手な子だった。
明るく振る舞っていても、それは両親に心配かけない様に明るく振る舞っていただけ。
手を大きく振って自分がここにいると分かるようにする行動は、産まれてから今までした事が無かった。
いつも、母や父のそばにいるか一つ年下のスンスクと一緒にいる女の子だった。
ペク家の子供たちの中でそう言う表現が出来るのは、長女のスンハと双子のスングとスアだけ。
他の子たちはスンジョに似て、大袈裟な行動はあまりしなかった。
「アッパ~、オンマ~。」
車が停車すのが待ちきれないのか、全速力でこちらに走って来る。
ハニは車の窓を開けて、走って来るスンミの方に叫んだ。
「走ったら・・・走ったらダメよ。心臓に負担が掛るから・・・・・・」
急いで車を降りて、掛けて来たスンミの側に近づいた。
「ハァ・・ハァ・・・・・大丈夫・・・・・ハァ・・・・・」
一曲を踊りきるのも辛そうにしていたスンミが、息が荒かったが明るい顔をしていた。
「大丈夫?少し休んだ方がいいわよ。」
スンミの細い腕を取り心配そうに様子を見ていると、車から降りたスンジョがその腕を取り脈を確認していた。
心配そうに見ているハニとは対照的に幸せそうな顔のスンミを、ハニが嫉妬しそうなくらいにスンジョは優しそうな顔で見ていた。
「陽に焼けたな。」
「フフ・・・・毎日ね、畑に出て草取りをしているの。」
「草取り?それにその服・・・・・スンミらしくない。」
スエットの上下に長靴に首にはタオルを巻き、つばの広い帽子をかぶっていた。
「畑作業を指導してくださる方に、今色々教えていただいてるの。これからここで働きます、よろしくお願いしますって・・・・」
「そうか・・・・でもヒョンジャの移動もあるけど残るのか?」
ハニにスンジョには内緒にしてほしいと言っていたはずのヒョンジャの事が知られていた事に驚いた。
「知ってたの?」
「まぁな・・・・・本当の事はこれから話すけど、スンミの部屋はそのまま前の所と変わっていないか?」
ハニに似ているスンミだから心配はないが、どこかスンハやグミと似ている所もあるから、思いもよらない行動を起こす可能性もある。
「・・・・・・・・・」
「どうして言わないの?まさか・・・・・」
「えっと・・・・・その・・・・」
「一緒に住んでいるのか?」
「「えっ?」」
ハニと同時に聞き返すスンミを見て、スンジョは自分の考えすぎだと気が付いた。
「スタッフ用の部屋が空いていたから、そちらに移ったの。アッパ・・・・・もしかして一緒に住んでいると思ってたの?」
「そう言うわけじゃないが・・・・それならスンミの部屋を紹介してくれないか?」
スンミの後に付いてスタッフの居住棟の方にハニと向かった。
ハニはスンジョの腕を引っ張り耳打ちした。
「本当はスンハみたいな行動をしていると思ったんでしょ?」
「思うか!」
「スンミはスンハとは違うわ。私と同じ考えの子だから、親を心配させたりしないわ。」
「そうかな?サンとの事は凄く心配したんだぞ。」
「あれは悪夢を見ただけ。スンジョ君と同じで、間違った判断をしたのよ。会社の為とか言って、見合いをしたあの時みたいに。」
「何を言うんだよ。あの見合いがあったから、今の会社があるんだ。」
二人でコソコソと話をしている両親を見て、スンミはこの両親の子供として生まれて良かったと思った。
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