明日はまだ何もない明日(スンミ) 60
スンミに案内された小さな部屋は、ソウルのペク家の自分の部屋の様に快適な環境とは言えないが、まだ何もない部屋のミニテーブルの上に置かれたフォトフレームが、スンミが過去を振り向かず前を向いて歩き出した事を表していた。
スンジョはその写真を見て複雑な気持ちだった。
スンミの為にと、息子の友人と偶然を装った見合いを設定した。
ヒョンジャは自分の教え子で、この男ならスンミを任せてみたいと思ったが、まさかこんなに早くに気持ちが動くとは思っても見なかった。
「アッパ、何をそんなに見ているの?」
「いつ撮ったんだ?この写真は・・・」
「えっとね・・・・それは・・・その記念に・・・・」
「記念?」
「いいの・・・・私たちの記念なんだから。」
スンジョの目から見られない様に、そのフォトスタンドを小さな小引出しに隠した。
「女の子が言う記念って・・・・・もしかして・・・・・え・・・・スンミ・・スンハと同じ事を・・」
「違う・・違う、あのね・・これ・・・・」
スンミの細い首に掛けられたチェーンを上げると、そこに通されている指輪がキラリと光った。
「指輪?」
「昨日ね、キム先生が私にプレゼントしてくれたの。でも・・・ほら・・・・・」
スンミが左の薬指にそれを通すと、全くサイズが違い大きすぎて、はめたら落としてしまいそうだった。
その指輪の石はスンミの誕生石のサファイアがハートに可愛くカットされていた。
「サイズを直してもらえばいいのに・・・・ねぇスンジョ君。」
「私がいいって言ったの。だって畑の事を勉強するのに、指輪をはめては出来ないから。ちゃんと婚約式をする時は、もっといいのを買ってあげるからって・・・・・・」
幸せそうに頬を染めて笑っている娘と、その娘の首に掛けられたチェーンに通された指輪を見て話しをしている母。
ハニと出会って遠回りをしたが、結婚して5年後にスンハが誕生した。
スンハとスンリの間に出来た子供は、この世で生きる事は叶わなかったが、スンリが産まれてその5年後に自宅で産まれたスンミ。
予定日よりひと月も早く産まれ、危険な状態からも持ち越して、身体が弱くても順調に成長して来た。
辛い初恋を経験したから、この明るい笑顔を見る事が出来た事に、スンジョは自分でも思いもよらず目頭が熱くなった。
辛い恋は、ハニの涙を見ていたから自分の子供たちにはさせたくなかった。
スンミとハニに見られないように窓際に行き、外の景色を眺めるふりをして涙を押さえた。
「日当たりのいい部屋だな。」
「キム先生の部屋は反対側で、陽も当たらなくて寒いの。そのせいでこの間熱を出したのよ。シャワーを浴びても暖房の効きが悪いから、よく風邪を引くんですって。」
「よく知ってるな。まるで頻繁に部屋に行っているみたいで。」
少々嫌味を込めて言ってみたくなるほど、スンジョの目に映るスンミは幸せそうだ。
「聞いただけよ・・・・・本当だから・・・」
焦るその様子はハニとよく似ていて、今でもこうしてからかっている事とスンジョは楽しくなって来る。
スンミの携帯が鳴って、誰かと話をしていた。
その表情から、その相手がヒョンジャだと直ぐに判る。
「キム先生が、仕事が終わったからここに来るって。」
もう言わないといけないな。
この出会いは、オレがサンと別れるためにセッティングしたのだと。
「キム先生が来る前にスンミに話しておかないといけない事がある。この出会いはアッパが・・・」
「気が付いていたよ。スンリお兄さんの友達で、アッパの教え子だと聞いてから。」
0コメント