明日はまだ何もない明日(スンミ) 65
「おばあちゃん?」
後から声を掛けられ振りかえると、そこにはほんのりと陽に焼けたスンミが立っていた。
その横にいる背の高い青年は、グミの顔を見ると丁寧に頭を下げた。
グミはその青年が、さっきスンミと一緒にいた青年だと判っていたが、知らない振りをした。
「元気そうね。アッパもオンマも来たしスンハもスンリもお見舞いに来たのに、おばあちゃんが来ないのもね。」
グミの明るい声と、この静養所で今注目されているスンミとヒョンジャのカップルの行動は、入所している人たちは気になって仕方がない。
「スンミの部屋に案内してくれるかしら?」
「狭い所よ。」
「じゃ・・・・また・・・・」
二人だけにしようとして頭を下げて立ち去りかけたヒョンジャをグミは呼び止めた。
「あなたもご一緒しない?スンミの好きなお菓子を持って来たのよ。」
「あ・・・・・・キム先生は・・・・・」
「いいじゃないの・・・・あなたはスンミの担当の先生でしょ?こんなに元気そうになったスンミのお礼をしたいわ。所長さん、よろしいわよね?彼を少しお借りしても。」
「勿論、構いませんよ。キム先生も、スンミちゃんのおばあ様とお話をして早く打ち解けた方がいいよ。」
所長はスンジョとハニが、グミに隠している事を知らない。
スンミはスンミで自分たちの事を何も知らないと思っているから、グミにどこまで隠していられるのか不安だった。
「あら?スンミの部屋はこっちじゃないの?」
「あのね・・・私、もう社会復帰が出来るまでに回復したから、そっちにはいられないの。今はね、職員宿舎の方に住んでるの。」
他の孫たちに比べれば、まだ色白で細すぎるくらいに細いが、それでもあのサンと付き合っていたと言っていた時期よりも健康的になって来たのは、この青年のお蔭なのではと思っていた。
グミの前を歩く二人は、無意識に手をしっかりとつないでいた事をグミは見逃していない。
指を絡ませて、ただの間ではない事は判る。
「ここよ。ちょっと狭いけど、すごく居心地はいいの。」
ペク家のスンミの部屋よりは狭くて古いが、陽当りはよく古い部屋ではあるが清潔感があった。
手慣れた感じで、グミの椅子をヒョンジャが用意して、ミニキッチンでお湯を沸かしているスンミの横でカップを並べている様子を見ると、頻繁にスンミの部屋に来ていることが伺われる。
「スンミは何時までここにいるの?」
「え・・っと・・・もう暫く、ここにいて今育てている作物を収穫するまでいようかと。秋には帰る予定よ。その頃に、スンスクとミラの赤ちゃんも産まれるでしょ?お手伝いしないと、オンマも大変だし、その頃には復学手続きをしようかと思ってるの。」
「そうね、ミラはあれから入院しているけど、順調に赤ちゃんも育っているみたい。そうそう、スンハがね、先週男の子を産んだわよ。」
「先週?じゃあ、ここに来てすぐ後なの?」
「家に来るかと思ったらね、電話で陣痛みたいだからインハをお願いと言って、そのまま病院に向かったわ。あの子は自分が産婦人科の医師なのに、まだ大丈夫だと思ったみたいよ。陣痛室から分娩室に移る前に産まれたの。」
スンミがお茶を淹れたトレイを運ぼうとすると、それをヒョンジャが受け取り、静かにグミの前に置くと、多分何も考えていないのだろう、自然と二人並んでグミの向かい側に座った。
グミの目は二人の様子を見るよりも、ヒョンジャの指の指輪と、スンミの首に罹っているチェーンに通されている指輪が同じ事に気が付いた。
「ペア・・・リングかしら?」
さりげなく、お茶を飲みながら呟くと、それぞれがその指輪に手を触れた。
「え・・・え・・・・・な・・・そ・・・・・」
スンミはハニと同じように、図星で当たったりするとどもってしまい、隠し事は出来る性格ではない。
「さっきも畑で二人仲良くいたのを見かけたの。恋愛中のカップルみたいにすっごくラブラブに見えたけど・・・・・・・」
「おばあちゃん・・・アッパから聞いていないの?」
「アッパから?う~ん・・・大体の事は聞いているけど、スンミが元気になった理由とか・・・・・・」
スンミが元気になった事は聞いていたが、その理由がヒョンジャだとは聞いていない。
そこは、聞き出し上手のグミだ。
まだまだ若いスンミには、グミのその手法を見破る事は出来ない。
「あのね・・・・彼・・・研修医でキム・ヒョンジャって言うの。スンリお兄さんの友達で・・・・・・・」
「初めまして、キム・ヒョンジャです。お孫さんの担当をさせていただいている研修医です。縁があって、スンリを通して教授がスンミと出会うようにきっかけを作っていただきました。スンミが大学を出て、私の研修期間が終わりましたら結婚をする約束をしています。」
「スンミが結婚したい人がいるとはスンジョから聞いていたのだけど、あなたの事だったのね。」
それは聞いていない。
ひた隠しにするスンジョ達の事を探っていたが、今一つ何を隠しているのか知らなかった。
自分たちの早い結婚を、今でも時々思う壺になったと言われているから隠していたのだろうと思った。
「そうね、良い日をを選んで今から式場をその時の為に探して行った方がいいと思うわ。あなた達の代わりに、私が式場のパンフレットとか取り寄せてあげるわ。ここにいたら、探しに行く事も難しいでしょうから。」
見ていらっしゃいよ、スンジョ。
あなたのその考えを、私が黙っていないから。
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